本研究は、窒素ドープ二酸化チタン(N-doped TiO2)の作製方法の更なる検討と、その有効性及び生物学的安全性について検討を行い、可視光照射下で有効な抗菌効果を発揮するN-doped TiO2の作製条件と可視光照射条件の最適化を目的としている。本年度は、試料の作製と各試料の表面分析、可視光照射下での抗菌試験を計画し、研究を実施した。具体的には、純チタンを研磨し、水酸化ナトリウムと温水に浸漬後、管状電気炉を用いて500℃、600℃、700℃の各温度にて3時間アンモニア雰囲気中で加熱処理を行うことで窒素ドープ酸化チタン試料(以下、500-3h、600-3h、700-3hとする)の作製を行った。 作製した試料表面に存在する元素の確認と定性・定量分析を行うためX線光電子分光分析装置(XPS)を用いて表面の観察を行った。さらに、試料に蒸着した薄膜の密度や結晶性などを調べるため薄膜X線回折装置(TF-XRD)による分析を行った。XPS分析から、加熱処理温度が高くなるにつれ試料にドープした窒素量も増加することが示唆された。また、XRD分析から700℃で加熱処理した試料表面の改質層にはアナターゼ型二酸化チタンが形成されていないことが示唆された。この原因としては、加熱処理の際に用いたアンモニアに含有される水素により還元反応が大きく進み、二酸化チタンよりも酸素が欠乏した状態の酸化チタンが形成されたと予想される。 今年度は、新型コロナウイルス感染症の流行により研究室への立ち入りが制限されるなど感染症拡大予防から研究活動も制限され、必要消耗品に関しても品薄で入手しにくい状態となったため購入できない期間があった。また、研究過程で電気炉の不具合がみつかり、途中サンプル作製ができない状態であったが、現在は修理を終え正常に稼働している。以上の理由から当初の研究計画よりも大幅に遅れが生じることとなった。
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