顎関節症の中でも終末期にあたる変形性顎関節症は顎関節部疼痛や顎運動障害を生じさせ,症状が強い場合には患者のQOLを著しく低下させる.しかし,変形性顎関節症の発症メカニズムは十分に解明されていないのが現状である. 本研究においてはまず,変形性顎関節症と遺伝の関連について調査を実施した.MRI検査を受けた顎関節症患者162名を対象とし,変形性顎関節症関連候補遺伝子(GDF5,COG5など)について,ヒトゲノム上における一塩基多型(SNP)の解析を行った.その結果,肥満遺伝子と報告されているFTO遺伝子のSNP(rs8044769)と変形性顎関節症の関連が明らかとなった.次に,顎関節症患者の臨床症状に対する咀嚼筋痛,顎関節円板動態異常の相対的影響度を調査した.その結果,関節円板の状態異常の存在より,咀嚼筋痛の存在が顎関節症患者の臨床症状に与える影響が大きいことが明らかとなり,咀嚼筋痛の改善が優先的な治療目標となる可能性が示唆された.2022年度は,Subchondral Cyst (SC)と呼ばれる下顎頭骨内に主に水分が貯留した嚢胞様の骨欠損が生じる病態についてMRIデータを用いて調査を行った.その結果,SCは下顎頭の力学的負荷の加わりやすい部位の近傍に形成される可能性が示唆され,また,SCは関節円板の位置異常,特に非復位性関節円板転位との関連が強いことが明らかとなった.さらに縦断的調査により,SCは増大することなく約2/3が時間経過とともに消失し,消失しない場合も拡大のような進行性を示さないことが判明した.また,SCを有する患者の臨床症状はSCの運命に関わりなく保存療法により十分に改善することも明らかとなった.本調査結果はJournal of Prosthodontic Researchに掲載済みである.
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