研究課題
加齢を最大のリスクファクターとする、関節軟骨の変性を特徴とする変形性関節症は顎関節を含む全身の関節に生じ、関節機能の障害・疼痛による日常生活動作や社会的活動の制限が問題となるものの根治療法はないのが現状である。また顎関節等外科的介入が困難な部位があることから、初期の段階で軟骨変性を阻止するべく、発症機構解明とそれに基づく有効な保存的治療法の確立が急がれている。本研究では、軟骨細胞の老化促進にCellular communication network factor 3 (CCN3)が関与しているのではないかと考え、令和2年度に以下の結果を得、学会発表および国際誌への論文発表を行った。1.胎児から37週齢までの異なる週齢のマウス肋軟骨および関節軟骨由来初代培養軟骨細胞において、細胞周期停止因子p16, p21, P53, 細胞老化関連分泌形質(SASP)関連因子とともに, 加齢にともなったCCN3遺伝子発現レベルおよび膝関節切片の染色性の正の相関関係を認めた2.ヒト初代培養軟骨細胞およびラット軟骨細胞様細胞株(RCS)に酸化ストレスによって人為的な細胞老化を誘導したところCCN3 mRNAおよびタンパクの発現上昇を見出した3.RCSでCCN3の過剰発現によりp21プロモーター活性の上昇を認め、マウス初代培養軟骨細胞およびRCSにリコンビナントCCN3タンパクを添加したところp21およびp53遺伝子発現レベルの上昇を認めた4.軟骨組織特異的CCN3過剰発現マウスの膝関節軟骨組織に変性所見を認め、同マウス肋軟骨由来初代培養軟骨細胞においてSASP関連因子、細胞周期停止因子の遺伝子上昇が観察された5.ヒト患者関節軟骨由来初代培養軟骨細胞において、CCN3, 細胞周期停止因子の遺伝子発現と年齢との強い正の相関を認め、膝関節組織において加齢とともに強いCCN3タンパクの染色像が見られた
2: おおむね順調に進展している
当初計画していたCCN3の軟骨細胞老化への関与を示す予備的知見の確認と、その分子メカニズムについての検証とトランスジェニックマウスの組織学的解析は順調に進んだ。さらに研究途中で最終年度に行う予定であった論文報告を行った。しかしながら当初本年度中に予定していたマウス関節軟骨におけるCCN3ノックアウトの実験は、COVID-19の影響に伴い実験スケジュールの目処が立たなかったことから本年度中に遂行に至らなかった。これらの点を考慮し、2020年度の研究進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
今後、正常マウスの膝および顎関節の関節腔内における部位限局的なゲノム編集を予定しており、その影響の検証のため老化指標や基質産生・分解についての組織学的解析を行う。さらに同組織から軟骨細胞を単離した後分子レベルでの細胞老化状態を解析する。
本年度中に予定してたマウス関節軟骨におけるCCN3ノックアウトの実験は、COVID-19の影響に伴う実験スケジュールの変更で本年度中に遂行に至らなかったため、未使用額が生じた。これらの実験は次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとする。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 21 ページ: e7556
10.3390/ijms21207556