糖尿病患者では、しばしば口腔乾燥症が合併し唾液分泌量の低下をきたすことが知られている。口腔乾燥症は、インプラント周囲炎や歯周病の増悪、義歯の装着困難など歯科補綴治療に悪影響をおよぼすこともあり、糖尿病における口腔乾燥症の病態解明および治療法の確立が急務である。先行研究では、2型糖尿病モデルマウスKK-Ayで唾液分泌量が有意に減少しており、その一因が腺房細胞内Ca2+濃度上昇の抑制であることが明らかになっているが、高血糖による慢性炎症の影響については未だ不明である。一方で、唾液分泌能の低下が危惧される糖尿病患者において、炎症性メディエーターである血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)が唾液腺や唾液中濃度で上昇しているとの報告があることから、VEGFをターゲットとした唾液腺の炎症コントロールにより唾液機能の回復が図れると考える。そこで本研究では、抗VEGF抗体の唾液腺への応用が唾液分泌機能の回復に有効か評価することで、抗VEGF抗体が口腔乾燥症の新規治療薬となりうるかをKK-Ayを用いて評価することを目的とした。 これまでにex vivo顎下腺灌流実験を行い、唾液分泌量の測定および分泌唾液中のイオン濃度などを測定している。その結果、実験24時間前に抗VEGF抗体ラニビズマブ10 μg/kgを腹腔内投与した群では、非投与群と比較して有意に唾液分泌量が増加することがわかった。一方で、分泌唾液中のイオン濃度などに変化はなかった。また、抗VEGF抗体投与群で導管細胞におけるAQP5の発現が変化していることが免疫組織染色により明らかとなった。
|