研究課題/領域番号 |
20K18620
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
三浦 大輔 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (40804125)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | PEEK樹脂 / 3Dプリンター / 義歯床 / ポリエーテルエーテルケトン樹脂 / 熱溶解積層法造形 / 加速劣化処置 / 曲げ試験 |
研究実績の概要 |
現在、わが国では65歳以上の5人に1人は要介護・要支援として認定されている。近年、歯科において訪問医療を必要とする要介護・要支援患者が増加している。それに伴い、わが国の医療費も増加の一途をたどり財源不足の原因となっている。介護老人の補綴処置では歯冠補綴処置よりも義歯の症例が多いことが知られているが、義歯を製作する手順は非常に煩雑であり、最終的な義歯の完成まで複数回の訪問が必要であることから医療費や材料費がかさみ大きな問題となっている。この事実は患者、術者およびわが国にとって深刻な問題であり、医療費を少しでも削減するために安価でかつ短期間で製作できる義歯の開発が急務である。本研究ではスーパーエンジニアプラスチックの代表格であるポリエーテルエーテルケトン樹脂を医療分への応用が進んでいる3Dプリンターを使用した熱溶解積層法造形と組合わせることになり、大型補綴装置である義歯床の製作を目的としている。 今年度の研究では、3Dプリンターで造形したPEEK樹脂の加速劣化後の基礎的性質を明らかにした。具体的には、熱溶解積層法造形によって製作されたPEEK樹脂に対し、加速劣化処置を施したのち、棒状試料の曲げ試験を実施した。また、曲げ強さについては積層方向の違いを含めて検討した。これは、要介護・要支援として認定されている高齢者の劣悪な口腔内環境に対して、熱溶解積層法造形によって製作されたPEEK樹脂の物性変化を研究するためである。 その結果、加速劣化処置を行った熱溶解積層法造形PEEK樹脂は劣化前の物性とほぼ変化がなかった。その結果、熱溶解積層法造形PEEK樹脂は要介護・要支援患者の口腔内に適応できることが分かった。この結果は、第79回歯科理工学会学術講演会において発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は熱溶解積層法造形で製作した棒状のPEEK樹脂に対し、120度2気圧により加速劣化処置を行い、その後曲げ試験を行った。これは、要介護・要支援患者の口腔内が劣悪であることを仮定し、その口腔内に熱溶解積層法造形で製作したPEEK義歯を装着することを想定とした実験である。その結果、積層方向に対し0°で製作した棒状試料は、加速劣化処置を行った熱溶解積層法造形PEEK樹脂は加速劣化を行う以前のPEEK樹脂と測定値に差が認められなかった。その結果、適切な積層方向で製作した熱溶解積層法造形PEEKは口腔内の劣悪な環境に耐えうることが明らかとなった。 また、今年度は熱溶解積層法造形PEEKと接着性レジンセメントの接着強さを測定した。これは、熱溶解積層法造形PEEK樹脂で製作した補綴物を歯質に接着することを想定した研究である。この結果、熱溶解積層法造形PEEKに対して機能性モノマーであるMDPが作用し、適切な接着強さが得られた。 2021年度はコロナの影響で様々な国際学会が中止や延期された。その限られた発表機会の中で、第79回歯科理工学会学術講演会にて発表を行い、様々な意見交換を行うことができた。これは今後の自分自身の研究において大きな刺激になるとともに、見地が広がり、結果としてこの研究の大きな発展になると考えられる。 以上より、このような進行状況と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
PEEK樹脂は半結晶性樹脂であることが知られているため、劣化試験前後の試料についてデジタル顕微鏡、SEMおよびエックス線解析により観察し、加速劣化によるPEEK樹脂のミクロな変化や結晶性の変化を調べ、物性に影響する因子を明らかとする。次いで、仮想空間上で3D-CADソフトを用いて簡単な全部床義歯のデジタルデータによるモデリングを行い、熱溶融積層法3Dプリンターによる造形法について検討を行う。義歯は口腔粘膜に接する「義歯床部分」と咀嚼に関わる「人工歯部分」の2つの要素から構成されているため、2種類以上のフィラメントを利用可能な3Dプリンターの利用についても検討する。例えば、レジン粉末を用いた選択的レーザー焼結法(SLS)による造形を用いて、「人工歯部分」として強度の強いフィラーを含有するレジン粉末で積層を行った後に、「義歯床部分」にはフィラーを含まないレジン粉末に交換する方法など造形法についても検討を行う予定である。その後、本研究で得られたデータをまとめ論文として報告する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響により、各学会がオンラインでの開催となった。そのため、海外での発表等の機会が失われたことにより使用額に差が生じた。令和3年度の持ち越した助成金について、令和4年度では論文、校閲、海外学会での発表の費用に充てる予定である。
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