口腔因子と高次脳機能の関連について、様々な結果が報告されているが、多人数を対象とした長期縦断研究はない。そこで本研究においては、自立した生活を送っている高齢者を対象として9年間の縦断研究を行い、口腔因子と高次脳機能ならびにその機能領域別の影響について、明らかにすることを目的としている。 2022年度は、感染対策に十分配慮したうえで、70歳群に対する会場調査を行った。2022年3月末までに、336名(70歳群名(伊丹地区110名、朝来地区80名、板橋地区97名、奥多摩地区49名)の調査を終えている。 本年度の研究成果として、地域在住高齢者1089名を対象に身体的・精神的(認知的)・社会的フレイルと口腔機能との関連について検討を行った。身体的フレイルは、日本版CHS基準に従った。精神的フレイルの判定は、MoCA-Jが23点未満かつWHO5が13点未満に該当している者とした。社会的フレイルの判定は、「独居」「家族以外の者との交流回数が月1回未満」「外出頻度が1週間に2回以下」のうち2つ以上該当している者とした。口腔機能は、咬合力、舌圧の測定を行った。各口腔機能を目的変数とし、各フレイル、該当フレイル数を説明変数とした重回帰分析により検討を行った。重回帰分析の結果、咬合力は、身体的、精神的フレイルと有意な関連を認め、舌圧は、身体的、社会的フレイルと有意な関連を認めた。また、咬合力・舌圧ともに該当フレイル数が多くなるほど低かった。研究結果より、地域在住高齢者において、口腔機能は、精神的フレイルに関連し、さらに、複合的なフレイルに該当することは、さらなる口腔機能低下につながる可能性が示された。
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