本研究は,若年者および摂食嚥下障害の既往のない健常高齢者を対象者とし,様々な研究や臨床の現場で利用されている口腔機能検査(咬合力検査,舌運動検査,嚥下検査など)を用いて,摂食・嚥下能力を包括的に評価した.そして,異なる力学的特性を有するゼリー食品を摂取する際の摂食嚥下動態(口腔咽頭期間の仕事量や努力性)を舌圧測定と筋電図測定により評価し,前述の口腔機能検査の結果との関連性を見ることで,個々の能力の違いで摂食嚥下動態がどのように異なるかを明らかにしたものである. 若年者15名および健常有歯顎高齢者15名および総義歯装着高齢者15名の生体計測を終えた.健常若年者において,歯による咀嚼が必要でない食品を摂取する際に行っている「舌押し潰し」時では,最大舌圧(舌で口蓋を押す最大の舌圧)が大きい対象者の方が,小さい対象者と比較して,押し潰しの回数が少なく,押し潰し1回1回の舌圧が高くなる傾向を示した.また,若年者と健常有歯顎高齢者において,最大舌圧は舌押し潰しで破砕できるゼリーの硬さの限界と正の相関関係にあることが明らかになった.これらの結果より,最大舌圧は舌押し潰しの動態や摂取できる食品の物性に影響を及ぼす因子であると考えられ,摂食嚥下能力が低下した高齢者に対して介護食を提供する際に考慮すべき評価項目になりうることが示唆された. これまで,上記の結果の一部を国際学会にて1件発表した.また,本研究およびに関連した研究に関する論文が英文科学雑誌に3編採択された(Food Hydrocolloids,Gerodontology,Journal of Oral Rehabilitation).さらに,現在英文科学雑誌への投稿のために論文を3編作成している段階である.
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