本研究は、低舌圧を伴う口腔機能低下症患者において、舌に対する筋機能訓練前後の運動誘発電位(MEPs)を測定し、舌筋力向上に必要な運動強度、頻度、時間についてのエビデンス確立を目的とした研究である。本研究により、低舌圧を伴う口腔機能低下症患者に対する有効な舌の筋機能訓練のエビデンスの確立ができれば、機能訓練メニューの最適化が実現し、終局的には、咀嚼嚥下障害の前駆的可逆的状態にある口腔機能低下症患者の口腔機能維持・向上のための管理が可能になるものと期待される。研究実績については、以下の通りである。 高齢者の被験者20名に対して研究参加の同意を得て、9名のドロップアウト(入院、けがなどによる通院困難)を除く11名の被験者の方のデータ取得を行った。 末梢のパラメータとして舌圧、中枢のパラメータとしてMEPsを誘発する刺激強度を測定した。舌圧は訓練前後において有意な増加が見られなかったが、増加傾向にあることが分かった。MEPsを誘発する刺激強度は1日目の訓練前と比較して5日目の訓練前後ともに有意に減少することが分かった。 このことから、高齢者において末梢のトレーニングにおいて中枢の神経可塑性が生じ、その結果舌圧が回復する可能性が示唆された。今後は長期的なトレーニング効果の持続性についても解明していく予定である。
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