智歯の抜歯術や顎矯正手術、デンタルインプラントの埋入に伴う合併症として三叉神経損傷が生じることがある。三叉神経損傷によって生じる三叉神経支配領域、特に口腔顎顔面領域の感覚異常に対しては有効な治療薬がなく、遷延化した場合には患者のQOLを大きく損なうことが報告されている。三叉神経損傷後の髄鞘の再生は感覚機能の回復に重要な役割を果たし、本研究ではミエリンを形成するシュワン細胞の機能について解析を行っている。オートファジーを負に制御するmammalian target of rapamycin(mTOR)のアロステリック阻害剤であるラパマイシンを投与するとラットの下歯槽神経(IAN)切断(IANX)によって引き起こされるオトガイ神経支配領域の感覚異常がVehicle投与に比べて有意に改善することを報告している。mTORの投与により切断された下歯槽神経の機能回復が生じる分子生物学的メカニズムとしては、切断された 下歯槽神経 の近位断端および遠位断端においてp70S6k活性を低下させていることからオートファジーの抑制が関与することが示唆された。一方、切断された 下歯槽神経の近位および遠位断端におけるBeclin 1 とLC3(MAP1LC3:Microtubule-associated protein light chain 3)の発現がシュワン細胞において上昇していることから、ラパマイシンがオートファジーを制御することによりシュワン細胞を介した軸索再生に寄与することを明らかとした。
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