神経障害性疼痛は慢性的な痛みとなり、生活の質を低下させます。近年、神経障害性疼痛に対する全く新たな治療薬として、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル阻害薬が注目されています。一方、神経障害性疼痛は、直接的な神経損傷の時だけでなく、炎症が関わっていることが報告されています。本研究代表者はHCNチャネル阻害薬に抗炎症作用があることを発見しましたが、これがどのように痛みの制御に関与しているかはまだ解明できていません。そこで、動物実験および培養した細胞で、HCNチャネル阻害薬ivabradineによる抗炎症作用が、どのように痛みを抑えているかを調べました。 ラットの後足にcarrageenanを投与して炎症反応を誘導した動物モデルにivabradineを投与した結果、ivabradineによって炎症性メディエータであるTNFαの産生が抑制されることが示されました。また、培養したRAW264.7細胞に大腸菌O55:B5由来のリポ多糖類(LPS)を投与して炎症反応を誘導しivabradineを投与すると、炎症性メディエータであるTNFαおよびIL-6の産生が抑制されることが示されました。さらに、LPS投与後に細胞を回収し、抽出したRNAから合成したcDNAを試料としてリアルタイムPCRを行い、HCNチャネルサブタイプ1~4の遺伝子発現を確認した結果、LPS非存在下および存在下ともにHCN2、HCN3のチャネル遺伝子の発現を認めました。そこでHCN2サブタイプ遺伝子をノックダウンし、LPSを投与して培養したところ、TNFα濃度は有意に低下かつノックダウン細胞ではivabradineの投与による有意な変化はみられませんでした。それらの結果、HCN2チャネルを介してivabradineの抗炎症作用および炎症性メディエータの産生は抑制されることが示されました。
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