研究実績の概要 |
【背景】口腔癌の80%以上を占める口腔扁平上皮癌(OSCC) において放射線治療は主要な治療法の一つであるが、その有効性には個人差が大きく、治療効果の乏しい患者の病勢コントロールや患者予後の改善が課題となっている。ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(PARP)はDNA一本鎖切断の修復に重要な役割を果たす酵素であり、PARP阻害剤であるオラパリブはBRCA1/2遺伝子に変異を有する卵巣癌や乳癌でその有効性が示されている。本研究は、OSCC患者に対するより有効性の高い治療法の開発を目指して、放射線抵抗性に関連するPARPの分子生物学的な働きの解明とPARP阻害剤併用の放射線治療の有効性の検討を行うことを目的とした。【方法】OSCC細胞株(SAS, HSC-2)に対して,オラパリブ単剤に対する感受性,オラパリブによる抗癌剤(CDDP, 5-FU)増強効果,オラパリブによる放射線増強効果について検討を行った。また放射線照射後の細胞におけるγH2AX の発現をオラパリブ投与の有無で比較した。【結果】オラパリブ単剤ではOSCC 細胞株において濃度依存的に細胞増殖抑制効果を認めた。OSCC 細胞株においてオラパリブによりCDDP の増強効果を認めたが、5-FU の増強効果は認められなかった。また、OSCC 細胞株においてオラパリブにより放射線の増強効果を認めた。オラパリブ投与後に放射線照射した細胞では,投与していない細胞と比較しDNA 二重鎖切断のマーカーであるγH2AXが有意に高発現していた。【結論】OSCC において,オラパリブ併用によりCDDPおよび放射線の治療効果が向上する可能性が示された。その機序として,抗癌剤や放射線照射により障害を受けたDNA がオラパリブによりDNA 単鎖修復が阻害され,より致死的なDNA 二重鎖切断が生じている可能性が考えられた。
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