口腔細菌叢は,化学療法による重篤な局所的あるいは全身的な病状と関連している可能性がある。本研究は,造血器悪性腫瘍患者における化学療法開始後の口腔細菌叢の変化を評価し,口腔粘膜炎に関連する口腔細菌叢の特徴を特定することを目的とした。本年度は,造血器悪性腫瘍患者の化学療法開始による口腔細菌叢の変化に影響を及ぼす因子を評価した。まず,年齢(65歳以上と65歳未満),義歯使用の有無,歯周炎の程度(軽度および重度)に分けた群間で,化学療法の開始前と開始後の口腔細菌叢の違いを Unweighted UniFrac distance および Weighted UniFrac distance によって比較解析した。その結果,群間で違いは観察されなかった。次に,化学療法開始前後の口腔細菌叢の変化の程度が疾患によって異なるかどうかを検討したところ,急性骨髄性白血病は,悪性リンパ腫および多発性骨髄腫に比べて変化が有意に大きいことが明らかになった(p < 0.01)。したがって,造血器悪性腫瘍患者の化学療法による口腔細菌叢の変化は疾患,あるいは用いられる薬剤レジメンによって異なる可能性が示唆された。 これまでの結果は,造血器悪性腫瘍患者における化学療法の開始に関連する口腔細菌叢の特徴を明らかにし,化学療法開始前の口腔細菌叢の組成が口腔粘膜炎に関連している可能性があることを示唆している。したがって,造血器悪性腫瘍患者の化学療法開始前後に口腔細菌叢に焦点を当てた口腔管理を行うことが重要であると考えられる。それぞれの疾患,使用薬剤による口腔細菌叢の変化の特徴を把握し管理するためには,更に大規模な調査が必要である。
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