研究課題/領域番号 |
20K18735
|
研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
中西 隆 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (80772582)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 舌神経損傷 / 断端神経腫 / 末梢神経再生 / シュワン細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヒトの断端神経腫に含まれる神経再生促進因子を添加した人工神経管の神経再生能の評価と開発を進めていくことであり、中空の内腔構造の改善がされた人工神経管の更なる神経再生の向上を目指すものである。まず、初年度はマウス坐骨神経損傷モデルの作成を行うため、環境整備と手術手技の獲得を行い、顕微鏡下での坐骨神経の切除と吻合を行った。手術手技としては、三種混合麻酔薬を腹腔内注射し麻酔した雄のマウスを使用し、左側の坐骨神経を剖出し、露出した坐骨神経を4mm切断した後に両断端の坐骨神経を十分に剥離して牽引し、顕微鏡下で10-0ナイロン糸を用いて直接吻合した。その後、筋膜・皮膚を4-0絹糸で縫合し、マウスを覚醒させた。また、坐骨神経を直接吻合した群と人工神経管を間に挿入し神経吻合を施行した群とで比較検討するために、切除した坐骨神経管に準備していた7mmの人工神経管を挿入し、10-0ナイロン糸で縫合し、同様に4-0絹糸で閉創した。作成した直接吻合したマウスと人工神経管を挿入したマウスを手術の7・14・28・42・56・84日後に足底部の疼痛閾値試験を用いて行動解析を行った。84日後にイソフルランで速やかに安楽死させた後、縫合した部位の坐骨神経を剖出し、切除部位より末端の神経組織と施術側のヒラメ筋と腓腹筋を切除し、パラフィン標本とした。抗S100βと抗PGP9.5抗体を用いて神経組織を、抗SERCA1抗体を用いて免疫組織学的に評価していく。さらには、加えて人工神経管に神経再生促進因子を添加し、評価していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、マウスの坐骨神経損傷のモデルを作成し、その環境と手術手技の習得、評価方法の確立に努めた。 実際の手術手技としては、イソフルランを吸入したマウスに三種混合麻酔薬を腹腔内に注入し、左側大腿部の脱毛をしたのち、大腿部の皮膚切開を施行し、坐骨神経を剖出した。坐骨神経は当初5mm切断予定であったが、両断端の吻合が困難となるため、4mmに切除範囲を変更した。直接吻合の群では、切除した坐骨神経の両断端を周囲組織と十分に剥離し牽引したのち、顕微鏡下で10-0ナイロンを用いて神経吻合し、4-0絹糸で閉創。人工神経管挿入群では、切除した坐骨神経の両神経断端の間に7mmの人工神経管を介入させ、10-0ナイロンで2糸ずつ縫合し、閉創した。手術終了し、覚醒したマウスはゲージにもどし、飼育再開したが、十分に歩行・立ち上がることができないため、餌と水分をゲージの底に置くようにした。神経吻合したマウスを処置後7・14・28・42・56・84日目に坐骨神経の再生評価を行った。当初はホットプレート試験を行う予定であったが、切断していない四肢がホットプレートに反応をしめすため、飼育途中の神経再生評価は、フィラメント線を用いた足底部の疼痛閾値試験と視診による評価のみとした。手術直後は伸展していた大腿部も14日目以降には屈曲し歩行するようになった。84日目のマウスから切除した坐骨神経の末梢部位とヒラメ筋・腓腹筋を摘出し、標本作成後、免疫組織学的に、神経の軸索の数や太さ、神経線維の太さ、 シュワン細胞の存在比率・支配筋の異縮率を比較検討していく予定である。本来、蛋白質を添加した人工神経管を用いたマウスについても評価する予定であったが、研究施設から離れた病院施設に着任したため、十分に研究日や研究時間が確保できず、研究の遅延につながった。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、坐骨神経の神経吻合を施行した群と神経再生促進因子無添加の人工神経管を挿入した群の施術と評価を行っているが、それに加えて、ヒトの断端神経腫に含まれる神経再生促進因子を添加した人工神経管の神経再生能の評価が必要である。使用する人工神経管は神経再生促進因子を注入した人工神経管を用いるが、その他の手術手技や評価方法は昨年度に行った研究内容と同等である。評価方法はホットプレート試験を廃止し、モノフィラメントを用いた足底部疼痛閾値試験と視診による行動評価と、再生後の神経と筋肉の免疫組織学的評価とする。実際に添加するタンパク質は宿主が大腸菌のリコンビナントタンパク質を水溶液に溶解させ、乾燥した人工神経管に浸透させ膨潤させる予定である。 すべての群のマウスの評価が終了した後に、コントロール群としての直接吻合術群と無添加人工神経管使用群も含めた、それぞれの群の神経再生評価を比較検討する。その後、各マウス群の神経再生能を比較した研究結果を総括し学会発表、論文作成を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
薬品や材料、抗体は使用している研究室に常備されていたものを使用し、補充する必要がなかったため、費用が抑えられた。また、今回、研究の遅延により、リコンビナント蛋白質の購入や抗体の追加購入がなかったため、次年度使用額が生じた。今年度はリコンビナントタンパク質の購入に加えて、人工神経管や抗体の追加購入が助成金の大部分を占める予定である。
|