研究実績の概要 |
口腔癌(口腔粘膜の扁平上皮癌)は、周囲組織への浸潤に加え早期に頸部リンパ節へ転移する傾向が強いことから早期発見が重要である。一方で、口腔粘膜は外来刺激による慢性炎症が重なっており、病理組織標本で初期の腫瘍性変化を見極めることは難しい。本研究では、粘膜上皮が癌化する過程で、上皮由来の異型細胞と非腫瘍性(間質)細胞との相互作用が鍵になると想定し、早期の粘膜表在性病変における異型上皮-間質要素間相互作用の分子基盤を明らかにすることを目指している。前年度までに、口腔癌の疑いで全摘切除された舌病変の組織診標本を用いて、異型上皮の指標となるCytokeratins(CK13, CK17), E-cadherin, p53, Bmi-1, Ki-67等の免疫組織化学的検索を行い、異型上皮領域の分子発現パターンを明らかにしてきた。 今回、組織表現型検索では、上皮組織環境に影響を及ぼしうる間質要素に焦点を当て、粘膜組織に存在する抗原提示細胞(樹状細胞やLangerhans細胞)、脈管内皮細胞の挙動を追跡した。この解析では、通常の病理組織標本観察に加え、連続薄切切片からの立体構築法を用いて健常粘膜~異形成病変組織における抗原提示細胞の空間分布も明らかにした。一方、粘膜炎の動物モデルで炎症性・腫瘍性の異型組織環境を比較解析する計画については残りの研究期間を踏まえて見直しを図っている。最終年度では、口腔粘膜組織を模倣したオルガノイドモデルを作出して、異型変化に関わる分子要素の検索を目指す。
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