本研究課題では歯髄組織にRANKL結合ペプチドを作用させることにより、象牙質が再生するか否かを検証することを目的としている。動物実験では画一的な手技で実験を行う必要があるため、実験の手技が確立するまでは他実験等ですでに屠殺されたマウスを使用した。マイジンガースチールバーの中でも最小径であるST1HP005の直径は0.5mmであり、下顎第一臼歯の歯冠高とほぼ同じだったため、近心面からは点状に露髄させることはできず、咬合面からの切削が適切であった。咬合面の中央窩から一方方向に切削することで、安定して同じ大きさと形状の窩洞をつくることができた。顕微鏡下でバーの直径と同じ深さを目安に切削し、一層残った象牙質に30Gの注射針を刺入することで、点状露髄のある窩洞を作成できた。露髄面にはRANKL結合ペプチドを含ませたシート状の担体を使用する計画であったが、シート状の担体ではその上部を接着性レジンで覆う余地がなかった。粒子状の担体を用い、RANKL結合ペプチドを含ませた薬剤を滴下した所、上部を接着性レジンで覆うことができた。 新型コロナウイルス感染症の流行により、当初の計画の順序通りに研究を遂行することが困難だったため、象牙芽細胞の分化誘導実験で必要となる、マウスから歯髄を採取する手技の確立を本年度は行った。歯髄の採取では、歯を切削し歯髄腔内の歯髄を採取することは奏功せず、根尖孔から根尖部の歯髄を採取する方が有効だった。採取前にCTで確認した所、下顎切歯は第三臼歯の遠心直下付近に根尖があり、第三臼歯の直下において歯髄腔が広いことが判明した。実際の手技においては、#15メスを用い、スライドガラス状で周囲の軟組織と骨を剥いでいき、第二臼歯直下で下顎切歯を切断すると、歯髄を画一的に採取できた。本年度の研究の成果としては、歯髄に薬剤を応用する際の実験手技が確立したことが挙げられる。
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