臼歯部の開咬を主徴とする非症候型原発性萌出不全 (Primary failure of eruption; PFE)は1981年に報告され、2008年には原因遺伝子として副甲状腺ホルモン受容体1 (Parathyroid hormone receptor 1: PTH1R)が同定された疾患である。臼歯部開咬に伴い、著しい咀嚼障害が生じ、治療において矯正治療は中心的役割を担う。しかし、萌出障害を有する歯の一部が矯正力に反応しないことが知られており、画一的な低位歯の牽引処置を適用するには注意が必要である。また、 昨年度よりPTH1Rの下流分子であるGNASの遺伝子異常に起因する偽性副甲状腺機能低下症に対する矯正治療が保険収載された。 本研究はPFE関連遺伝子がすべて同定されていない可能性を見出し、PFEの病態や矯正治療経過の違いが原因遺伝子に起因するものであると仮定し、この相関を明らかにし、治療法のガイドライン確立を目標とした。PFEが疑われる患者にスクリーニングとして遺伝子検査を行う一方、検出された原因遺伝子と治療結果を紐づけしたデータを蓄積し、適切な診断・治療法の選択に指針となるガイドラインを確立し、確定診断に利用可能なパネル検査の構築を図ることを目指した。 昨年度、口腔領域に特化した先天異常の原因遺伝子を含んだパネル検査を構築しこれを利用して、現在、PFEを発症している1家系 3名と孤発症例1名、非症候性部分無歯症の患者13名について遺伝子解析を終えた。PTH1Rにて変異が見られなかった症例において疾患原因遺伝子の絞り込みを行ったが、新規原因遺伝子の同定には至っていない。しかし、PTH1Rの変異が見られなかった症例では矯正力に対し歯牙移動が見られることもあり、何らかの遺伝子型・表現型相関がみられることが示唆された。今後、症例数を増やして検討していく予定である。
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