研究課題/領域番号 |
20K18756
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
水川 朋美 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 非常勤研究員 (60868412)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | TMJ-OA |
研究実績の概要 |
本申請課題ではTMJ-OAの発症を阻止し、傷ついた軟骨を修復する新しい治療法を生み出すための基盤を築くことを目指す。そのために軟骨細胞でOA様変化をもたらす局所的糖代謝不全が、関節軟骨の成熟に深く関与するCCN3を強く発現誘導することに着目し、どのような分子がそれを媒介しているか、また誘導されたCCN3が軟骨代謝にどのような影響を与えるかを解明することを目指した。 CCN3発現制御が転写段階で行われていることは研究開始時点で分かっており、令和2年度はヒト軟骨細胞様HCS-2/8細胞のみならず2つのヒト乳がん細胞株を用いた実験で、解糖系によるCCN3制御は軟骨細胞だけでなく他種細胞でも機能している普遍性あるシステムであることが確認できた。そして各種分子生物学的解析とビッグデータ解析を組み合わせた検討の結果、解糖不全に対する軟骨細胞の反応として、CCN3の発現上昇が転写因子RFX1を介して制御されていることが明らかとなった。さらに解糖阻害条件下で抗CCN3抗体でCCN3を吸着すると、軟骨細胞の生存活性が低下することも明らかにした。 そこで、令和3年度は細胞株を用いたin vitroの検討から、実験動物を用いたin vivoでの解糖活性によるCCN3制御機構の生理学的意義の解明へ、と研究を進めた。胎生16日齢マウスから脛骨軟骨原基を摘出し、そこでのCCN3産生を免疫組織染色により確認したところ、滑液と直接接触する表面の軟骨細胞はCCN3シグナルを示さなかったのに対し、栄養供給に乏しい軟骨組織深部における強いCCN3の産生が見られた。この事実は内軟骨性骨形成と関節軟骨形成過程において、本研究で明らかにされたCCN3調節システムが生理学的役割を果たし、細胞を飢餓状態に順応させる役割を担っていることが推察された。令和2年度のin vitroでの結果と総合的に考察すれば、CCN3は飢餓状態にある軟骨細胞代謝を適正化し、関節軟骨細胞のホメオスタシスの維持に貢献していると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
はじめの2年間で解糖系阻害によるCCN3誘導現象がHCS-2/8のみならずMCF7細胞およびMDA-MB-231細胞でも観察されることを確認した。さらにHCS-2/8細胞における解糖系遮断によるCCN3の発現誘導を媒介するエンハンサー領域をレポータージーンアッセイで絞り込んだ。また、ENCODEポータルサイトの転写因子ChIPデータベース解析などの各種in silico解析を用いて、当該エンハンサーに結合する転写因子RFX1を推定し、CCN3遺伝子の発現上昇の制御を媒介する転写因子であることを実験的にも証明した。さらに解糖阻害時に生成されるCCN3の役割を解明すべく研究を進め、解糖阻害条件下で、抗CCN3抗体でCCN3を吸着してしまうと軟骨細胞のviabilityが低下することや、in vivoで発生途中の脛骨軟骨原基で、関節液から遠く栄養供給に乏しい軟骨組織深部において強いCCN3の産生が認められたことから軟骨においてCCN3が細胞を飢餓状態に順応させる役割を担っていることを示すことができた。これらの点から、令和3年度末の段階で、研究期間内で達成すべき目標の達成に迫っており、当該年度の研究進捗状況は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度、令和3年度の実験結果から転写因子RFX1が、実際に解糖系阻害によるCCN3誘導に関与していることは実証できており、生体におけるその役割についても一定の成果が得られたが、まだ検討すべきことは残っている。 発生過程における、飢餓によるCCN3の誘導の意義に続いて、変形性関節症が生ずる成体の関節軟骨におけるこの誘導システムの役割も検討する必要がある。これに続いて、当初の計画通りRFX1機能を阻害、および増強する小分子の探索に進む。すなわち、小分子スクリーニングのための化合物ライブラリの探索と選定に移り、最終段階であるOAモデル動物を用いたin vivoでの効果検証まで到達することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に引き続き、令和3年度も新型コロナウイルス感染の拡大が継続したため、研究打ち合わせや学会参加のための旅費支出がほとんどなかった。また、後期より研究実施者の勤務地及び勤務日数の変更があったことにより大学での実験などの研究活動が制限を受けたため、実験に用いる消耗品の支出が減った結果として次年度使用額が生じた。令和4年度では次年度使用額と当該年度に請求する助成金を合わせて、上記の推進方針に則って引き続きRFX1を阻害、および活性化する小分子の探索と選定、そしてOAモデル動物を用いたin vivoでの効果検証へと研究を進めていく予定である。
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