軟食化ならびに社会の高齢化が急速に進むなか、「噛めない」「うまく飲み込めない」児童や、摂食(咀嚼・嚥下)機能障害を持つ高齢者が急増している。食物をよく噛まずに丸呑みする食事パターンが老年期にまで継続すると、摂食・嚥下障害を有する高齢者が益々増加し、将来極めて大きな社会問題になることが予測され、オーラルフレイルの予防および早期治療への対策が検討されている。顎口腔領域における機能低下・不全は、顎顔面形態のパターン形成に大きな影響を及ぼすといわれているが、成長期における機能発達や形態成長の過程を、継続的に定量評価することは極めて困難であった。本研究は、顎口腔機能低下マウスおよび不正咬合マウスを用いて、成長発達期における咀嚼・嚥下機能と顎顔面形態パターンの相互制御機構を解明することを目的としている。離乳期にあたる3週齢のマウスの咀嚼筋へA型ボツリヌストキシン(BoNT/A)投与を行うことで顎口腔機能低下モデルマウスを構築し、機能低下により引き起こされる成長期における咀嚼・嚥下機能の顎顔面形態への影響を評価する。また、3週齢のマウスに下顎を偏位させる目的で咬合誘導装置を装着した不正咬合モデルマウスを作製し、成長期における顎顔面形態変化が咀嚼・嚥下機能の発達に与える影響を評価する。 本年度は、9週齢での不正咬合モデルマウスのマイクロX線CTによる形態計測および形態データ解析を行い、下顎頭や下顎角の骨密度および歯槽骨骨密度の低下が認めれられた。また、成長発達期のマウスに不正咬合を発現させたことで、臼歯で食物を粉砕臼磨するという咀嚼機能の学習がなされず、その後の正常な咀嚼機能の発達にも影響が及んだ。 本研究において、成長発達期における咀嚼機能低下や不正咬合は、その後の正常な形態発育のみならず、咀嚼機能の発達にも影響を及ぼすことが示唆された。
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