Down症候群(DS)はその特徴的な遺伝的背景により免疫応答の異常が認められ,重篤な歯周病が持続しやすいが,その機序は未だわかっていない。本研究は,NF-κBを不活性化することで炎症反応を負に制御するユビキチンリガーゼPDZ and LIM domain protein-2(PDLIM2)が,DSにおける歯周病の病態形成にどのように関わっているのかを明らかにすることを目的とした。しかしながら,これまでに歯肉線維芽細胞においてPDLIM2に関連した報告はない。そこで,歯肉線維芽細胞においてもPDLIM2が炎症反応を抑制し得るかを明らかにし,本研究を遂行するための足がかりとした。その結果,ヒト歯肉線維芽細胞HGF-1において恒常的にPDLIM2が発現していることが確認された。一方,歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis(P. gingivalis)由来LPS(P-LPS)刺激によってPDLIM2遺伝子発現およびタンパク質発現は濃度依存的に減少した。さらに,siRNAを用いてPDLIM2をノックダウンさせたHGF-1においてP-LPS刺激でIL-8遺伝子発現が対照と比較して有意に上昇した。以上より,ヒト歯肉線維芽細胞においてPDLIM2がP-LPSによって誘導される炎症応答を抑制的に制御している可能性が高いと考えられた。 次に,健常者由来歯肉線維芽細胞(NGF)とDS由来歯肉線維芽細胞(DGF)との比較では,P-LPS刺激によるIL-6,IL-8ならびにTNF-α遺伝子発現がDGFで有意に上昇した。さらに興味深いことに,NGFと比較してDGFでは無刺激時にPDLIM2発現が有意に低いことが示された。従って,DSにおける重篤な歯周病の病態形成には,炎症反応に対して抑制的に働くPDLIM2の低発現が深く関与している可能性が高いことが推察された。
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