研究課題/領域番号 |
20K18771
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
安永 まどか 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 講師 (80845264)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 歯周組織オルガノイド / 自家歯牙移植法 / 歯根膜幹細胞 / セメント質分化 / 骨分化 |
研究実績の概要 |
歯の欠損に対して有効な治療法の一つに「自家歯牙移植法」がある。しかしながら、実際の歯科臨床においては移植後の骨性癒着、歯根吸収および移植歯の喪失などによる多くの失敗例が報告されている。これは再構築される歯周組織の不調和によると考えられる。本研究では生体の歯周組織を模倣する複合体、すなわち調和の取れた歯周組織オルガノイドの作製実現に向けて研究を進めている。 複合体を構成する細胞群の分化度調節を主体に実験を行った。歯周組織のセメント質への分化誘導促進について検索を行った。具体的には、間葉系幹細胞(歯根膜幹細胞、HPLSC)の分化能力を亢進させるため、3次元培養を図った。 その方法として、スフェロイド(細胞の凝集体)を形成した後にコラーゲン・ゲル培養を行った。さらに、recombinant human plasminogen activator inhibitor-1 (rhPAI-1)添加した。スフェロイドをコラーゲン・ゲルに埋入すると、スフェロイドの融解が起こり構成されている細胞の再分散化がみられ、ゲル内は細胞が充満している状態になる。PAI-1添加した群は他の培養群と比較して、細胞の再分散化が促進された。また、スフェロイド形成とコラーゲン・ゲル培養を行い、rhPAI-1添加した群はセメント質への分化促進が認められた。 これらの結果を論文として、int J Mol Sciに投稿し、掲載となった。また、HPLSCの骨分化誘導については、初期のオートファジー関連因子と骨分化促進に関与を認めた。これらの結果を第29回硬組織再生生物学会学術大会・総会(学会賞受賞講演)にて発表した。 以上のことから、調和の取れる歯周組織オルガノイドの作製に関して、歯周組織である骨とセメント質への分化誘導調節について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調書での研究計画では、歯周組織オルガノイドの作製を試み、細胞シートの作製と積層を確立するところまで予定としていた。しかしながら、実際には細胞シートの積層まで到達していない。コラーゲン・ゲル培養後のアッセイに時間が掛かったこと、さらに、コロナにより研究時間が思うように取れなかったことも影響している。 本年度の成果としては、歯周組織オルガノイドの作製に向けてた基礎研究として、スフェロイドとコラーゲン培養を組み合わせた培養法と分化誘導法を促進させる方法についての検討を主体に行った。 セメントへの誘導はPAI-1を用いて、骨分化誘導にはosteogenesis-induced medium (OIM)を細胞に添加して誘導を行った。分化誘導の確認はALP染色法、ARS染色法、免疫細胞染色(ICC)法およびWestern blotting(WB)法で行った。スフェロイドとコラーゲン培養を組み合わせた培養は、それぞれに分化誘導させたHPLSCを非接着性プレートに播種して単一のスフェロイドを作製した。作製した数個のセメント誘導HPLSCスフェロイドおよび骨分化誘導HPLSCスフェロイドをコラーゲン・ゲルに埋入すると、スフェロイドの融解が起こり構成されている細胞の再分散化がみられる。スフェロイド体は消失し、ゲル内は細胞が充満している状態になる。PAI-1添加した群は他の培養群と比較して、細胞の再分散化が促進された。また、スフェロイド形成とコラーゲン・ゲル培養を行い、rhPAI-1添加した群はセメント質への分化促進が認められた。HPLSCが再分散化したコラーゲン・ゲルは、自家歯牙移植において歯根膜の組織として移植に有効であると思われる。また、PAI-1添加によりセメント質分化促進と再分散化の促進が図られるため、移植の組織として、これらを応用してオルガノイド作製に展開して行けると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
スフェロイド形成とコラーゲン・ゲル培養、さらにPAI-1添加によりセメント質分化促進と細胞のゲル内での再分散化が促進される可能性が示唆された。 今後の展開としては、セメント質誘導のさらなら確立のため、CEMP-1の遺伝子導入の検討を図りたいと考える。また、分化度を調整した歯周組織構成細胞を用いた歯周組織オルガノイドの作製を主体として研究を進めたい。 多細胞性細胞シートとスフェロイドを混合したコラーゲン・ゲル培養法を応用してセメント質/歯根膜線維/歯槽骨からなる歯周組織複合体を形成する。具体的には、多細胞性細胞シートの作製はセメント芽細胞・歯根膜細胞・骨芽細胞の3層サンドイッチ形態の細胞シートを作製する。セメント芽細胞の細胞シートはPAI-1を添加、もしくはCEMP-1遺伝子導入の細胞にてシートを作製する。骨芽細胞シートはOIM添加を行い作製する。スフェロイド体にはシートを構成する3細胞に加えて、栄養補給を司る血管内皮細胞も含む形態とする。これらのシートとスフェロイドをコラーゲン・ゲルで培養して歯周組織オルガノイドを作製する。作製されたオルガノイドの機能は、形態標本を作製して細胞群の極性配列を確認する。さらに、機能の確認はオルガノイドを短期間培養して歯周組織複合体を模倣できているかを生化学的および形態学的に検証する。 最終的には、ラット下顎臼歯を用いた移植実験を行う。具体的には抜歯後、受容側にオルガノイド含有コラーゲン・ゲルを埋入する。ゲル埋入後、 移植歯をゲルが含まれた受容側に移植する。コントロールは受容側の未処理群を用いる。移植後の評価は、micro-CTおよび組織標本により歯周組織の修復状態および歯根吸収の程度などから検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は他の研究費からの助成を受けていたことに加えて、コロナにより研究時間が減少して物品購入が少なかったため。やや研究の進捗状況が遅れているために、オルガノイド、細胞シート作製に使用する培養試薬および器具などに費用が掛かると予想されること、また遺伝子導入による実験も進めるため、繰り越し費用を実験に使用したいと考えている。
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