数年間に及ぶ長期間の矯正歯科治療は、う蝕や歯周病、歯根吸収の発生に関与するため、治療期間の短縮は非常に重要である。低出力超音波パルス (LIPUS)は、矯正学的歯の移動を促進させる可能性が示唆されるが、そのメカニズムは不明である。本研究では、マウス実験的歯の移動モデルおよびマウスから単離した骨改造に関与する初代培養骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞を用いて、in vivo、in vitroの系で解析を行い、矯正学的歯の移動時におけるLIPUSの影響を解明することを目的とする。 本年度は、10週齢Wistarラットの上顎歯列に直径0.012インチのニッケル・チタン製ワイヤーを装着し、水平的かつ持続的な荷重が上顎両側第一臼歯に加わるように調整し、上顎両側第一臼歯を頬側へ移動させると同時に、頬側からLIPUSプローブを固定しLIPUS刺激を負荷した。LIPUS刺激を負荷せずに歯の移動のみを行ったラットをコントロールとした。実験的歯の移動開始から経時的に上顎歯列の印象採得を行い、得られた石膏模型を用いて歯の移動量を測定した。さらに、実験的歯の移動を行ったラットから上顎骨を摘出し、20%EDTAにて2週間脱灰し、上昇アルコール系で脱水、透徹を行った後にパラフィンにて包埋した。ミクロトームを用い、水平断連続切片を作製し、ヘマトキシリン-エオジン染色にてラット歯槽骨における矯正学的歯の移動時の歯槽骨の変化を組織学的に解析した。その結果、コントロール群では、実験的歯の移動により歯根周囲の歯根膜が圧迫側では縮小し、牽引側では拡大していた。一方、実験的歯の移動にLIPUS刺激を負荷すると、歯根周囲の歯根膜はコントロール群と同様に圧迫側では縮小し、牽引側では拡大していたが、さらに歯槽骨内部の骨髄腔がコントロール群と比べて増大していた。
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