研究課題/領域番号 |
20K18777
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大継 將寿 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (40803086)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミュータンスレンサ球菌 / 感染性心内膜炎 / コラーゲン結合タンパク / 定着メカニズム / 予防 |
研究実績の概要 |
これまでに、う蝕病原性細菌のうち菌体表層にコラーゲン結合タンパクを発現しているミュータンスレンサ球菌(CBP陽性株)が感染性心内膜炎の病原性に関与していることや、脳内微小出血やIgA腎症の患者の口腔検体から高頻度で検出されることが明らかになってきた。ミュータンスレンサ球菌は通常、養育者と子の間で伝播する傾向が強いとされているが、全身への病原性が高いとされるCBP陽性株については検討されていなかった。本研究では、CBP陽性株の伝播および定着メカニズムを、乳幼児期の口腔細菌の定着および授乳習慣の観点から検討した。 まずは、大阪大学歯学部附属病院小児歯科を受診した小児および母親の唾液を採取し、MSB寒天培地に播種した後、ピックアップできたコロニーより染色体DNAを抽出し、PCR法にてミュータンスレンサ球菌の確認を行った。91ペアの小児および母親において、各被験者よりミュータンスレンサ球菌をそれぞれ5株ずつ合計910株採取し、PCR法にてCBPの保有の有無を確認した。40ペアから採取した合計400株に関しては、さらにAP-PCR法にて小児と母親との間での伝播の有無を確認した。また、母親には授乳習慣などの育児に関するアンケート調査を行い、CBP陽性株の伝播に関与する因子を検討した。 母親では小児と比較してCBP陽性率が高い傾向を示した。また、80%の母子間でミュータンスレンサ球菌の伝播が確認されたが、母親がCBP陽性株を保有する小児では母親がCBP陽性株を保有しない小児と比較して有意に高い確率でCBP陽性株が検出された。さらに、CBP陽性株を保有する小児は保有しない小児と比較して有意に母乳育児期間が短いことが明らかになった。これらの結果から、母親はCBP陽性株の主要な感染源であり、母乳がミュータンスレンサ球菌の口腔内の定着に影響を及ぼす可能性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の1つは、ミュータンスレンサ球菌のなかでも特にCBP 陽性株の母子間での伝播と授乳習慣との関連性を統計学的に明らかにすることである。さらに、歯面上および口腔粘膜上の CBP 陽性株に対して母乳中抗菌活性物質が示す抗菌効果を検討することである。現在までに、91ペアの小児および母親からミュータンスレンサ球菌を採取することができており、CBP 陽性率を算出することができている。また、母乳がミュータンスレンサ球菌の口腔内の定着に影響を及ぼす可能性を示すことができている。これらのことから、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、引き続き9ペアの小児および母親からミュータンスレンサ球菌の採取とアンケート調査を行い、研究開始当初予定していた100ペアでの統計学的分析を行い、小児および母親それぞれでのCBP 陽性率およびCBP 陽性株の伝播率を算出するとともに、授乳習慣との関連性を検討する予定である。 次に、当教室にてこれまでに構築したEx-vivoバイオフィルム分析を応用し、ウシの歯牙切片および口腔粘膜上皮の組織切片に対するCBP陽性株感染時の病原性の評価を行う。また、母乳中に含まれる抗菌活性物質であるリゾチームおよびラクトフェリンを添加し、各組織切片上に定着させたCBP陽性株に対する抗菌効果を病理組織学的に評価し、その特性を明らかにする。各組織切片に定着させたCBP陽性株に対してこれらの抗菌活性物質が高い抗菌効果を示した場合には、ヒト口腔由来の培養細胞を用いてCBP陽性株の付着能および抗菌活性物質の抗菌効果を共焦点レーザー顕微鏡にて検討することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 一部の小児から唾液採取の協力が得られなかったこと、小児または母親の一方の唾液からミュータンスレンサ球菌が検出できなかったことなどから、研究開始当初の予定より小児および母親のペアから得られたミュータンスレンサ球菌のサンプル数が若干少なく、統計学的分析が遅れている。しかし、次年度の早い時点で予定したスケジュールに追いつくことができると考えている。 (使用計画) 次年度早期に今年度に予定していた統計学的分析を完了し、病理組織学的分析を遂行するつもりである。
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