これまでに、う蝕病原性細菌のうち菌体表層にコラーゲン結合タンパクを発現しているミュータンスレンサ球菌(CBP陽性株)が感染性心内膜炎の病原性に関与していることを明らかにしてきた。また、CBP陽性株が脳内微小出血や IgA 腎症の患者の口腔検体から高頻度で検出されることが複数の臨床疫学研究から明らかになってきた。ミュータンスレンサ球菌は通常、養育者と子の間で伝播する傾向が強いとされているが、全身への病原性が高いとされるCBP陽性株については検討されていなかった。そこで、本研究ではCBP陽性株の定着メカニズムを、乳幼児期の口腔細菌の定着および授乳習慣の観点から検討した。 大阪大学歯学部附属病院小児歯科を受診した小児および母親の唾液を採取し、MSB寒天培地に播種した後、ピックアップできたコロニーより染色体DNAを抽出し、PCR法にてミュータンスレンサ球菌の確認を行った。100ペアの小児および母親において、各被験者よりミュータンスレンサ球菌をそれぞれ5株ずつ合計1000株採取し、PCR法にてCBPの保有の有無を確認した。一方、母親には母乳育児期間、卒乳時期などの授乳習慣を含めた育児に関するアンケート調査を行い、CBP陽性株の定着に関与する因子を検討した。 母親(29.0%)では小児(17.0%)と比較してCBP陽性率が高い傾向を示した。また、母親がCBP 陽性の小児(41.4%)では、母親がCBP陰性の小児(7.0%)と比較して有意に高い確率でCBP陽性株が検出された。さらに、CBP陽性株を保有する小児は保有しない小児と比較して、母乳育児期間が有意に短く、母乳摂取経験がない小児が有意に多いことが明らかになった。これらの結果から、母親は小児へのCBP陽性株の主要な感染源であるとともに、乳幼児期の授乳習慣がCBP陽性株の口腔内の定着に影響を及ぼす因子である可能性を示すことができた。
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