ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃疾患の原因菌として知られており、口腔を介して感染が成立と考えられているがその詳細なメカニズムは未だ不明である。本研究では、齲蝕がピロリ菌の感染成立に関与する可能性を検討することを目的とし、ヒト口腔内におけるピロリ菌の存在および齲蝕の関連について検討を加えた。また、ピロリ菌の口腔への定着メカニズムの一端を明らかにするため、齲蝕の原因菌であるミュータンスレンサ球菌により形成されるバイオフィルムとピロリ菌の口腔への定着との関係を検討することとした。 ヒト口腔サンプルを用いた分析において、未処置齲蝕歯を有する成人被験者では、未処置齲蝕歯を有しない成人被験者と比較して有意に高いピロリ菌検出率を認め、小児被験者においても齲蝕経験歯数が5歯以上認める者において4歯以下の者と比較してピロリ菌検出率が高い傾向を認めた。また、バイオフィルム形成能の分析により、ピロリ菌単独では単相で希薄なバイオフィルムしか形成されなかったのに対し、ミュータンスレンサ球菌との共培養においてピロリ菌は形成されたバイオフィルム内に多く分布し、チャンバースライド内におけるピロリ菌の菌量の割合は単独培養した場合と比較して有意に高い割合を示した。これらの結果から、齲蝕およびその原因菌であるミュータンスレンサ球菌の存在がピロリ菌の口腔内への定着に関与することが示唆された。 今後さらに本研究を進めることにより、齲蝕を含めた口腔衛生環境とピロリ菌定着の関連が明らかになれば、乳幼児期から齲蝕を予防することがピロリ菌の感染成立を防止し、関連する胃疾患発症の予防につながるという知見が得られる可能性があり、大変意義深いものであると考えている。
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