研究課題
本研究は、関節リウマチ(RA)に対する新規治療法の開発を目的としている。研究代表者はこれまでの検討で、炎症および骨破壊を惹起する際のシグナル伝達において中枢的な役割を果たしているTAK1に着目してきた。TAK1阻害剤であるLLZをRAのモデル動物に投与したところ、炎症スコアおよび関節破壊が顕著に抑制されたことから、LLZの有効性を見出し、その治療効果の詳細な検討を進めた。近年、RAの病態におけるNLRP3インフラマソームの関与が示唆されている。RAのモデル動物の滑膜組織にはNLRP3インフラマソームを発現しているマクロファージが多く認められたが、LLZの投与によってそれらマクロファージの浸潤およびインフラマソーム形成が抑制されていた。In vitroの検討において、LLZはマクロファージにおけるNLRP3インフラマソームの形成を阻害することでIL-1βの産生を抑制した。さらに興味深いことに、RAのモデル動物では一部の破骨細胞にインフラマソーム形成が認められた。破骨細胞にNLRP3インフラマソーム形成を促す刺激を加えたところ、IL-1βの産生が確認され、破骨細胞がインフラマソームを形成することが示唆された。さらに、その培養系にLLZを添加したところ、破骨細胞からのIL-1βの産生が抑制された。また、LLZはIL-1βによって滑膜線維芽細胞に発現が誘導される、RANKL、IL-6、MMP3の発現を抑制した。以上の結果より、LLZはマクロファージおよび破骨細胞におけるNLRP3インフラマソームの形成を抑制し得ること、また、IL-1βのシグナル伝達自体を抑制することで、滑膜線維芽細胞からの骨破壊に関わるサイトカイン産生を抑制し得ることが示唆された。LLZは炎症および骨破壊を単剤で抑制可能なポテンシャルを持っていることがうかがえ、今後更なる検討を進めていきたい。
2: おおむね順調に進展している
LLZがRAのモデル動物において著名な炎症・骨破壊抑制効果を示したことから、その機序を明らかにすることを目的として検討を進めてきた。LLZがインフラマソーム形成を抑制することで炎症および骨破壊を抑制していることが明らかとなったが、これまでインフラマソームを標的としたRAの治療薬はないことから、今後の創薬研究にも寄与できる結果が得られたと考えている。本研究結果は現在学術雑誌に投稿中であり、おおむね計画していた通りに進展していると思われる。
RAではインフラマソームのみならず、T細胞をはじめ多くの免疫系のシステムが複雑に関与し病態を形成している。RAの薬剤は自己免疫を抑えることから、感染症のリスクなどが問題となる。本研究で用いたTAK1阻害剤も、TAK1がT細胞の分化に関わっているという報告があることから、副作用の観点からもその他の免疫系の細胞にどのような影響を与えているかを検討していく必要がある。また、今回はRAのモデル動物としてCIAマウスを用いたが、その他のモデル動物にも効果があるかどうかを検討していく必要もあると考えている。
新型コロナウイルス感染拡大を受けて学会出張等の旅費が必要なかったため。また、試薬等についても当初の予定ほどの使用量がなく、追加での購入が必要なかったため次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した研究費と合わせて、論文投稿費用や投稿した際に必要になる追加実験のための動物および試薬購入費等に使用する予定である。
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Haematologica
巻: 106 ページ: 1172-1177
10.3324/haematol.2019.244418
Cancers
巻: 12 ページ: 929~929
10.3390/cancers12040929