研究実績の概要 |
近年, 矯正治療を希望する年齢層が高まってきている。加齢により様々な代謝に変化が生じる。矯正治療において歯の移動時の圧迫側と牽引側に骨のリモデリングが生じるため, 骨代謝の変化は深く関与する。Daidzeinは骨粗鬆症に用いられ, 骨吸収抑制と骨形成を促進する物質である。本研究の目的は, daidzeinが壮年患者の歯の移動の骨代謝にどのような影響を及ぼすか解明することである。 研究方法としては, 壮年患者に相当するaging ratの歯の移動モデルにdaidzeinを投与し, 骨形成因子(ALP, OCN, BMP-2)と骨吸収因子(RANKL, OPG)の発現を組織学的に検討する。In vitroでは、骨芽細胞に矯正的な圧迫・牽引力を加えdaidzeinを投与し, in vivo と同様の遺伝子動態を分子生物学的に検討する。 昨年度はaging ratを用いた研究はかなりの年数がかかるため現実的ではないと判断し, 雌性ratに卵巣摘出術を行い歯の移動を行いdaidzeinの効果について検討を行うこととし, 実験を行っている。CT撮影結果では卵巣摘出ラットにおいてdaidzeinを投与した群は投与してない群と比較し骨密度が高くなり後戻りも少ない傾向にあることが分かった。染色像については現在実験を行っている最中である。In vitroにおいても壮年患者の細胞培養が困難であることから, まずdaidzeinの骨代謝への影響を検討するため骨芽細胞に矯正力を負荷し遺伝子動態を調査することとした。その結果, 圧迫力のみ加えた群よりも圧迫力を加えdaidzein投与した群でRANKLの遺伝子発現は減少傾向OPGの遺伝子発現は増加傾向を示し骨吸収を抑制する可能性があることが分かった。圧迫力のタンパク発現および牽引力の負荷については現在実験中である。 本研究でdaidzeinの矯正的な歯の移動における骨代謝への影響を解明できれば, 今後増加する壮年矯正患者の骨代謝の均衡を保ちながら歯の移動を行え, 患者負担の少ない安全で効率的な矯正治療を行う一助となると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
In vivoにて, 実験計画の立て直しが必要となり卵巣摘出ラットを使用することに変更し, 倫理委員会などを通し直していたため動物実験の開始が遅延した。また新型コロナの影響により打合せが困難となり研究の開始がより遅れた。 In vitroでは,コロナにより壮年期患者の来院数が減少し研究計画を見直し, 骨芽細胞へdaidzeinを添加し圧迫および牽引力を負荷しその影響についてまず検討することに変更し実験開始が遅れた。流通が悪く材料の入手が困難であったり,動物実験同様にまた新型コロナの影響により打合せが困難となり研究の開始がより遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
In vivoでは, 卵巣摘出ラットの矯正学的な歯の移動前・中・後にdaidzeinを腹腔内注射しマイクロコンピューター断層撮影を行い歯槽骨の吸収量の測定, 骨の形態計測及び骨密度の測定の結果をまとめていく。歯根周囲の牽引側では, 骨形成因子であるALP, OCN, BMP-2を圧迫側では, 骨吸収因子のRANKL, OPGとTRAPの発現を組織学的に引き続き検討していく。この際、まず卵巣摘出を行わない(偽手術を行ったもの)同一週齢のラットを対照群として歯の移動時の骨吸収の程度や歯の移動距離等について卵巣摘出群と比較検討を引き続き行う。 In vitroでは骨芽細胞に, 圧迫力と牽引力を加え, daidzein処理を行い, ALP, OCN, BMP2, OPG, RANKLの遺伝子発現及びタンパク産生量について引き続き検討を行う。圧迫側に関してはTRAP染色およびPitformation assayについても検討し, daidzeinの破骨細胞の抑制効果について検討する。
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