研究課題/領域番号 |
20K18796
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
柏村 晴子 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 講師 (20425268)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 舌突出 / 歯間化 / 口腔機能発達不全症 |
研究実績の概要 |
舌の動きを観察することは、口腔機能の発達を評価する上でかかせないチェック項目の1つである。構音時の舌突出は、サ・タ行音を構音する際の歯間化構音の有無による判定が有用だが、口腔機能発達を考える上でこの歯間化構音をどのように捉えるかについては不明である。そこで歯間化構音の有無を左右する因子を明らかにすることを目的として解析を行った。 対象は、 4~12歳の男女、146人。Hellmanの歯齢を基準とし、乳歯列期・切歯交換期・側方歯交換期の3群に分類した。構音時の舌の観察を行うため、絵カードを被験者に呼称させ、ビデオにて記録し歯間化構音の有無と口唇閉鎖力および切歯部の被蓋関係を測定した。あわせて切歯交換期群で歯間化構音を認めた被験者8名に、Electropalatography(EPG)を用い「あた」構音時の舌の口蓋への接触位置を測定した。 結果、乳歯列では歯間化群の割合が、正常群(歯間化なし)より高かった。その割合は増齢するにつれ減少するが、側方歯交換期でも約20%に構音の歯間化がみられた。口唇閉鎖力およびOver jetはどの歯齢でも、正常群と歯間化群の間に有意な差はみられなかった。しかしOver bite(OB)はいずれの時期においても、歯間化群のほうが小さい値を示し、切歯交換期では統計学的有意性が認められた。EPGによる観察では、歯間化構音が産生される際、正常例と比較し舌が口蓋の中央や後方に接触するパターンを持つ小児がみられた。 以上より、歯間化構音の有無を口腔の成長発達段階別に観察したことによって、構音時の舌突出は、低年齢時には通常に存在しており、口腔機能の発達とともに消失していく可能性が示された。切歯交換期以降に歯間化構音が残存する要因として、切歯部被蓋の浅さや舌後方部の口蓋への誤った接触が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
歯間化構音の有無を口腔の成長発達段階別に観察したことによって、構音時の舌突出は、低年齢時には通常に存在しており、口腔機能の発達とともに消失していく可能性が示された。切歯交換期以降に歯間化構音が残存する要因として、切歯部被蓋の浅さや舌後方部の口蓋への誤った接触が関与していることが示唆された。データの裏付けを行うため、さらに母数を増やすことが必要と判断したため、症例数を集めている最中である。しかし、研究を進めていく過程の中で、反対咬合やオーバーバイトがマイナスを示す開咬症例は、除外しているため、新たな母数獲得に時間を要してしまった。また、あわせてEPG機器の不具合が発生し、機器の調整に時間を要したことも、研究が遅れている要因の1つとして挙げられる。遅れ分を次年度は早急に取り戻すべく、研究を続けていく運びである。
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今後の研究の推進方策 |
口腔機能の中でも舌の機能の正常な発達は、嚥下機能、構音機能のどちらにも深く関与しているため、舌の機能訓練法についてはさまざまな方法が提案されてきている。しかしながら、乳児型嚥下の残存や構音時の舌の動きの誤りについては、診断基準や評価方法がいまだ確立できていない現状がある。そこで、本研究では、舌突出癖や異常嚥下癖といった舌の機能異常に着目し、構音時の舌の動きの評価を行っている。本年度は、咬合との関係についての解析を行った歯間化構音が見られる小児の口腔形態や習癖を明らかにするため、咬合状態、口唇閉鎖力、軟組織評価、保護者へのアンケート調査などの様々な因子を現在解析中である。これらの因子がどのような影響を与えているか詳しく解析するためには、統計学的分析が必要と考え、保護者にアンケート調査をあわせて行っている。アンケート調査により、乳歯列期に構音の歯間化を有する小児は、嚥下時も舌突出を有するものが多く、やや口唇閉鎖力が低く、そして扁桃肥大を有する被験者の割合が高いことが示された。つまり、これらの項目が重複して観察される小児は、構音の歯間化が成長発達においても改善せず切歯部交換期および側方歯交換期に突入してしまう可能性があるが、1つの個体で追跡調査していかないと答えを導けないため、今後の課題として取り組んでいきたいと考えている。 また、構音の歯間化がおきている際の舌の口蓋への接触パターンをEPGシステムを用いて観察した結果からは、正常の舌の動きに近いパターンで歯間化が生じているものも存在していることがわかった。つまり、構音時の歯間化には歯列形態に異常を及ぼさない、積極的な介入の必要がないものもある可能性もみえてきた。また、構音時の口蓋への舌の接触パターンの違いが、成長発達期を通して構音の歯間化の継続に関与してるかどうかについても、あわせて今後も検討を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今回、構音の歯間化がおきている際の舌の口蓋への接触パターンをEPGシステムを用いて観察した結果からは、正常の舌の動きに近いパターンで歯間化が生じているものも存在していることがわかった。つまり、構音時の歯間化には歯列形態に異常を及ぼさない、積極的な介入の必要がないものもある可能性もみえてきた。また、構音時の口蓋への舌の接触パターンの違いが、成長発達期を通して構音の歯間化の継続に関与してるかどうかについては、今後も検討が必要と考え、次年度の使用額を計上した。
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