近年、腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が脳に影響を与えることが明らかになり、自閉スペクトラム症(ASD)との関連が指摘されている。日々、唾液を飲み込むことで持続的に嚥下される口腔細菌は、直接的に、あるいは腸内細菌への影響を介して間接的に、ASDに関与している可能性がある。しかし、その関連については明らかにされていない。 本研究はASD患者の唾液と糞便から口腔と腸内の細菌叢を解析し、その組成バランスに特異性があるかを明らかにすることを目的とする。本研究の結果から、ASDに特異的な口腔と腸内の細菌叢のバランスが明らかになれば、ASDの病因解明に貢献できるだけでなく、唾液や糞便の検査という低侵襲な方法がASDの早期診断やバイオマーカーとして活用できるかも知れない。 2022年度は、これまでに集積した検体の詳細な解析を実施した。対象は、北海道大学病院小児・障がい者歯科外来に通院する、ASD患者と定型発達の患者とし、検体として唾液と糞便を収集した。唾液と糞便から口腔と腸内の細菌叢をメタ16s解析し、細菌組成の比較を行ったところ、ASD患者の口腔と腸内の細菌叢は、定型発達の患者の組成とは異なっていることが認められた。菌種組成の類似性の比較(β多様性)について解析したところ、ASD患者の口腔と腸内の細菌叢は、定型発達の患者の細菌叢とは類似していないことが認められた。定性的な評価、定量的な評価においても有意差が認められた。さらに、ASD患者群と定型発達群を区別し得る細菌種の候補を複数見出した。 本研究の結果がASDの病態に関係しているかどうかはさらなる研究が必要だが、今回の結果は、ASD患者の診断や治療アプローチに新しい視点を与える可能性がある。
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