研究実績の概要 |
歯科的身元確認が必要な事例の場合、遺体の口腔内環境は生前と大きく異なることが多いと考えられ、歯科所見採取に苦慮する。さらに近年の歯科材料および歯科治療技術の向上により歯冠色材料と天然歯との鑑別は非常に困難である。本研究では法医学的資料を想定し、特殊環境下に曝露された歯冠色材料の色調および蛍光変化について分光測色計、分光計を用いて客観的に評価し、歯科的個人識別に有用な指標を提示することを目的としている。 本年度は熱環境下を想定した実験を進めた。コンポジットレジン6製品およびグラスアイオノマーセメント2製品、計8種類の歯冠色材料を用いて直径15㎜、厚さ1㎜の円板状のサンプルを作成し、加熱温度を200℃および300℃、各温度下において10分間および30分間の加熱を行った。この4条件について5回の反復実験を行い、加熱前後における蛍光強度とピーク波長を分光蛍光光度計(F-7000, HITACHI, Japan)および分光計(Qmini sprectrometer,RGB photonicsGmbH,Germany)を用いて測定し、比較した。またL*a*b*および色差を分光測色計(CM23d, Konica Minolta, Japan)を用いて測定し、加熱前後の変化について検討した。その結果、200℃においては肉眼的な変化、各測定項目の変化共に顕著ではなかったが、300℃においては蛍光スペクトルおよび色調変化共に明瞭な違いが認められた。本実験結果については現在論文を執筆中であり、来年度中に国際雑誌に投稿予定である。また、本実験結果を受け、最終年度である2023年度には湿潤環境下および土壌中における歯冠色材料の変化を検証するべく、新たな実験を実施する予定である。
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