研究課題/領域番号 |
20K18801
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
山口 浩平 東京医科歯科大学, 東京医科歯科大学病院, 特任助教 (70822550)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 口腔機能低下症 / オーラルフレイル / 超音波診断装置 / 口腔周囲筋 / 咬筋 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、咬筋や舌骨上筋群などの口腔周囲筋性質(量、質、硬さ)と口腔機能低下症の関連を明らかとすることで、超音波診断装置を用いた新たな口腔機能評価法を確立することである。これまで口腔周囲筋量と口腔周囲筋力との関連は示されてきたが、筋硬度も含めた口腔周囲筋質に対する検討はされていなかった。また、単一の口腔機能のみならず、口腔機能全体と口腔周囲筋性質の関連は不明であった。そこで、本研究では、地域在住高齢者を対象に口腔機能低下症と筋硬度を含めた口腔周囲筋性質との関連を調査することとした。 2021年度もCOVID-19の影響で、高齢者を対象とした計測会の実施は困難であった。そのため、まずは予備研究として健常成人を対象とした口腔周囲筋性質と口腔機能との関連の調査を開始した。超音波診断装置を用いた咬筋、オトガイ舌骨筋の量、質、硬さに対する評価法を確立し、検者内信頼性を算出した。習熟した検者が実施すれば、信頼できる計測が可能であることが明らかとなった。また、咬合力や開口力などと口腔周囲筋性質との関連を調査し、健常成人において口腔周囲筋性質の中で機能評価に有用な指標を明らかとした。今後、健常成人で得た知見をもとに、高齢者に対する検討を進めていく。口腔機能と口腔周囲筋性質との関連調査に加えて、健常成人と高齢者の比較で、口腔周囲筋性質の加齢変化も明らかとなり、今後の歯科医療のさらなる発展に寄与しうる。これまでの結果は、国内、国際学会での発表を目指し、抄録を提出済みである。また、今後、国際誌への論文投稿を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度もCOVID-19の影響で、高齢者に対する計測会は実施できなかった。予備研究として健常成人に対する口腔機能、口腔周囲筋性質調査を実施した。エラストグラフィを用いた筋硬度評価は、口腔周囲筋、特に舌骨上筋群に対してはほぼ先行研究がなく、評価手法の確立が必要となった。体幹筋や咬筋の先行研究を詳細に調査し、超音波診断装置を用いた口腔周囲筋量、質、硬度の評価手法を確立した。現状、咬筋、オトガイ舌骨筋に絞り評価法を確立し、級内相関係数を算出した結果、習熟した検者であれば信頼性のある計測が可能なことも明らかとなった。また、健常成人の口腔周囲筋力と口腔周囲筋性質の関連を調査した。50名の健常成人を対象とした調査で、年齢、性別などを調整した多変量解析の結果、咬合力、開口力では、口腔周囲筋のうち、筋量のみが有意な関連を示し、筋質、筋硬度は有意な関連を認めなかった。健常成人では、口腔周囲筋量が最も有用な口腔機能の指標であることが示され、国際学会での報告を予定している。先行研究から健常成人と高齢者では、口腔機能と口腔周囲筋性質の関連は異なることが予想され、今後は地域在住高齢者を対象とした検討を要する。現在、自治会などの協力を得て、3箇所、およそ100名の高齢者を対象とした計測会の調整をしている。オンラインミーティングツールや対面での研究目的、計測会概要の説明を通じて、自治会員の方々に本研究の意義を理解いただき、計測会の準備が順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに健常成人を対象とした予備研究で、評価法の確立、口腔周囲筋性質と機能の関連が明らかとなった。2022年度は地域在住高齢者の計測を実施し、①高齢者における口腔機能低下症と口腔周囲筋性質の関連、②口腔周囲筋力と口腔周囲筋性質の関連、③口腔周囲筋性質の加齢変化の3点を明らかとしていく。予備研究を通じて、口腔周囲筋性質の中では、口腔周囲菌筋量が最も有用な口腔機能の指標であると予想できるが、高齢者と健常成人では筋性質と機能の関連が異なることも先行研究で示されているので、詳細な検討が必要である。2022年度は、感染対策に十分に配慮した上で、高齢者を対象とした計測会を3箇所で実施する予定である。それによって、コロナ禍でも研究を継続するためのノウハウを蓄積できるものと考える。2022年8月中に計測会が完了予定なので、その後、健常成人のデータと合わせて統計解析を進めていく。健常成人に対する調査結果は、すでに国内学会、国際学会に抄録を提出しており、今後発表予定である。また、健常成人はすでに80名の計測が完了しており、データをまとめて、国際誌へ論文報告予定である。地域在住高齢者に対する調査結果も同様に統計解析し、国内学会、国際学会、国際誌への報告を予定している。超音波検査は簡易で非侵襲、かつ職種の制限もないため、口腔機能や摂食嚥下に関わる研修会を通じて今回の知見を歯科医療従事者のみならず多職種に向けて発信することで、今後の更なる医科歯科連携、多職種連携に繋げていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は健常成人の口腔機能計測にかかる必要物品を購入した。2020年度に超音波診断装置を購入した際に、2021年度の予算と合わせて購入した関係で、当初の予定と異なり、次年度使用額が生じた。2022年度は研究成果報告などにおいて当該予算を使用する予定である。
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