口腔機能と全身の関連は多くの研究で報告されており、口腔機能低下症の概念も少しずつ普及してきた。口腔機能低下症は可逆的な口腔機能の低下であり、早期に介入することで改善しうるので、早期発見、早期介入が重要である。しかしながら、現在の口腔機能低下症診断は7項目の評価で構成されており、その手順は煩雑である。舌や咬筋など口腔周囲筋の性質(量、質)とそれぞれの口腔機能の関連は報告されてきたが、口腔機能低下症との関連は不明であった。超音波診断装置は簡易で非侵襲な装置であり、筋性質の評価に優れている。本研究の目的は、超音波診断装置を用いた簡易な口腔機能低下症の評価法を検討することであった。本研究において、健常成人を対象としたこれまでの調査では、筋硬度を含めた咬筋性質のうち、咬筋厚、すなわちその量のみが咬合力と有意な関連を示すことを国際学会で報告した。その結果は、先行研究からも支持される。2022年度は、123名の健常高齢者のデータを用いて、口腔機能低下症と口腔周囲筋(咬筋、オトガイ舌骨筋)性質(量、質、硬さ)を探索的に解析した。123名のうち、口腔機能低下症に該当した者は30名であった。口腔機能低下症の有無と口腔周囲筋性質の関連を統計的に解析したところ、咬筋硬度が有意な関連因子だった。これまでの成人を対象とした調査とは異なる結果であり、加齢による影響や単一の口腔機能と、口腔機能低下症という概念の違いなど、その要因は今後のさらなる検討が必要である。しかしながら、咬筋性質の中でも筋肉の硬さが口腔機能低下症と関連するという知見は新しく、今後、超音波診断装置を用いた口腔機能評価法の確立の一助となりうる。
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