本研究は、放射線治療患者を対象として、放射線照射による味覚障害の発症とその回復過程のメカニズムについて探索を行った。研究期間内で、舌癌に対して小線源治療を受ける患者のうち研究について同意を得られた23名を登録した。登録した23名の患者のうち当初の計画通りにデータが収集できた患者数は10名であった。取得した患者データのうち解析可能な項目は、主観的評価項目であるvisual analogue scale(VAS)と客観的評価項目である甘味、うま味、苦味に関する味覚受容体の発現量であった。VASスコアは放射線治療前の状態と比較して、0から100までのスケールで評価した。0は味覚なしで100は治療前の味覚と同様とした。今回の解析では、VASスコアが90以上で味覚の回復とみなした。味覚受容体の発現に関しては、舌を放射線治療側と非放射線治療側とに分けてそれぞれの側から細胞を採取して、味覚受容体の発現量を測定した。VASスコアが90以上となるのに要した平均日数は、甘味で284日、うま味で308日、苦味で308日であった。味覚受容体発現に関しては、放射線治療直後は、甘味、うま味、苦味のすべての味覚受容体は、舌の放射線治療側で発現量が多かったが、その後、経時的に舌の放射線治療側と非放射線治療側の味覚受容体発現量の差は少なくなる傾向を示した。しかしながら、味覚受容体の発現量には大きなばらつきがあり、今回の研究データから味覚受容体の発現量とVASスコアとの関連性について明確な示唆を得ることは困難であった。今後は舌からの味蕾細胞の採取方法について再検討が必要であると考えられた。
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