死後経過時間推定法はさまざまな手法が報告されているが、それらの多くは軟組織の腐敗や外部環境に大きく依存するため、さまざまな手法を併用し算出する必要がある。特に今回のように水中死体の場合、体温降下が空気中よりも早く、加えて引き上げられた際に生じる水分蒸発のための体温冷却の加速により死後経過時間の推定は困難になる。死斑の程度による推定も、水温や水中での体位変換による影響で正確な判断が困難になる。さらに、死後経過が進行した場合、白骨化や屍蝋化により、遺体から得られる情報は極端に減少する。本研究は試料を淡水に浸漬し、その過程で生じた歯の表面の付着量の変化を電子線マイクロアナライザーで分析した。これらの手法で浸漬時間別に分析し、その付着量の変化から水中浸漬時間の推定法とし回帰式を算出する事ができた。この研究により、これまでの死体現象に依存しなければならない問題点を解消しており、さらに軟組織に被覆されていない歯を分析対象としたことで、外部環境に影響されない死後経過時間推定法を確立した。今回の淡水での付着物分析結果から求めた回帰式を既報の海水用回帰式に代入すると誤差の平均は38±33day、専用の淡水用回帰式に代入すると誤差の平均は11±10dayであった。そのため、浸漬された水質とは異なる回帰式を使用した場合、浸漬時間に延長と共に推定値の誤差が大きくなる事がわかった。これらのことから、淡水と海水のそれぞれの回帰式の使い分けることにより、より正確な推定値を算出できる事が確認できた。 本研究では淡水に浸漬した遺体を想定しエナメル質付着物を分析することで、水中浸漬時間の推定のために回帰式を算出し、良好な結果を導き出した。海水中の遺体を想定した同様の回帰式はすでに報告されており、これにより2種の水成分に対応した推定方法を確立することが出来た。
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