研究課題/領域番号 |
20K18822
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
林 海里 東京医科歯科大学, 東京医科歯科大学病院, 特任助教 (30803192)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 歯周病 / 骨格筋 / トレッドミル / 筋衛星細胞 |
研究実績の概要 |
近年、サルコペニアやロコモティブシンドロームは健康寿命低下の要因であるとわれており、その予防策の立案の前段階として、骨格筋の合成や活動に悪影響を与える因子を把握することは、超高齢社会における重要なテーマである。一方、歯周病罹患者では、歯周病細菌の抗原が歯周ポケット内から血流に入り、全身的炎症が誘発されることが報告されている。炎症は骨格筋量や筋収縮能を低下させるという報告の存在から、歯周病が運動後の筋合成などの応答反応を低下させる可能性が想像されるが、今まで検討はされていない。そこで今研究ではIn vivoの実験で「歯周病罹患が運動後の骨格筋合成に与える影響」の検証を行っている。 2021年度は、2020年度に決定した歯周病誘発条件(トレーニング開始1週間前からの歯周病破砕抗原:10^9/mLの持続的経口投与)およびトレッドミルを用いた運動条件(25m/min:毎週2m/minずつ速度上昇、傾斜5度で30分/日を週4日×4週間)を用いて、歯周病誘発およびトレーニングを行った後、持久力テストと腓腹筋の採取を行い、組織学的評価を行った。 組織学的評価では筋横断面積には差は生じていなかったが、Pg抗原投与群で筋衛星細胞の分化の遅延を示唆する所見が得られた(Pax7-/MyoD+の発現量の低下)。筋衛星細胞は骨格筋の損傷後の修復の際に発現誘導因子を変化させながら筋細胞に分化していくことが報告されているため、この結果から歯周病原細菌抗原の持続経口投与は運動後の骨格筋修復に負の影響を及ぼすことが示唆された。これは筋持久力にも影響を及ぼすことが考えられ、実際、トレーニング最終日に行った走行試験ではPg抗原摂取群で走行可能時間は有意に低値を示した。しかし持久力は他にも例えばミトコンドリア量などの因子も大いに関連するため、今後更なる検討が必要であり、2022年度以降の課題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は前年度に決定した条件をもとに、当初予定していた項目についてデータ採取・解析まで行うことが出来、更に得られた結果を2021年12月に開催された日本スポーツ歯科医学会(併催日本歯科医学会)で発表し、研究奨励賞受賞という評価を得ることが出来た。以上より進捗状況は、おおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果から、骨格筋修復において、歯周病原細菌は負の影響を与える可能性が示唆されたと言える。しかしその影響だけが持久力低下の結果(P.g投与群で低値)に結びつくわけではなく、さらなる検討、例えばミトコンドリア合成などについても今後検討の必要がある。また、実際にトレーニングを行う場合は、トレーニング後に十分に効果を得ることが出来るか、ということも重要な項目であるため、2022年度以降はトレーニング後の筋肥大や前述したミトコンドリア合成など、トレーニング後に向上が期待される効果への影響についての評価を考えている。具体的には2022年度は、トレーニング後に、PGC-1αなどの骨格筋肥大やミトコンドリア合成に関与する二次伝達物質の発現量を評価し、歯周病がトレーニング効果に与える影響について評価・検討を加えていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は論文投稿を行うために、2022年度分から前払い請求を行い英文校正費・投稿費の確保を行ったが、年度内にアクセプトまで至らなかったため、投稿費を次年度に繰り越すこととなった。繰り越した資金は次年度にそのまま投稿費として使用し、新たに入金される助成金は、当初の予定通り、研究消耗品、学会参加費に使用する予定である
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