研究課題
近年、食と腸内細菌叢の相互作用を介して産生される代謝物(メタボライト)が、宿主の様々な生理機能や疾患傾向に影響を及ぼすことが見出されている。消化器官の入り口である口腔には腸内に匹敵する豊かで複雑な細菌叢が存在し、真っ先に食物に対峙するにも関わらず、摂食の過程で生理活性を有するメタボライトが産生され、口腔や全身の健康への影響に関する詳細はほとんど分かっていない。食品が歯間部に挟まり歯肉縁から歯肉溝内にかけてその残渣物が長期間留置されると、歯肉の炎症を来し垂直性骨吸収を伴う歯周病発症の端緒となることが古くから知られている。この食片圧入による歯周炎の発症については、機械的刺激を主要因とする持続的な炎症性破壊によるものと考えられ、歯肉溝内で食物と口腔細菌叢の相互作用の結果産生されるメタボライトが潜在的に持つインパクトについて考慮してこなかった。本研究ではこうした背景のもと、口腔細菌叢と食の相互作用に注目し、メタボライトを網羅的に測定する技術であるメタボロミクスを活用し、口腔細菌による食の代謝が歯周病発症に寄与するという仮説の検証を行う。これまでに、特定の食品と代表的口腔細菌のin vitro共培養システムを構築し、上清中の代謝物プロファイルの変動と口腔細菌の増殖率の変化を調べ、各食品に対する口腔細菌の代謝特性、および環境中へのメタボライト産生能を評価している。その結果、特定の食品と口腔細菌を組み合わせた際に顕著に増加するメタボライトを複数同定し、それらを代表的な歯周病菌であるPorphyromonas gingivalisに作用させ、バイオフィルム形成能など、その病原性に及ぼす影響を評価している。また、被験者から採取した歯垢を食品と一定時間共培養し、細菌叢の構成や代謝物プロファイルの変動を解析することで、in vitro共培養実験で得られた結果の妥当性を検証している。
3: やや遅れている
基礎学的な実験的研究に関しては、特定の食品と代表的口腔細菌のin vitro共培養システムを構築し、上清中の代謝物プロファイルの変動と口腔細菌の増殖率の変化を調べ、各食品に対する口腔細菌の代謝特性、および環境中へのメタボライト産生能を評価している。その結果、ビタミン、補酵素、アミノ酸など、特定の食品と口腔細菌を組み合わせた際に顕著に増加するメタボライトを複数同定し、それらを代表的な歯周病菌であるPorphyromonas gingivalisに作用させ、バイオフィルム形成能など、その病原性に及ぼす影響を評価している。また、ヒト臨床検体を用いた検証については、歯垢のサンプリング、および被験者の口腔の臨床指標の記録・収集を完了し、得られたサンプルを食品と一定時間共培養し、細菌叢の構成や代謝物プロファイルの変動を解析することで、in vitro共培養実験で得られた結果の妥当性の検証を進めている。
当初計画通り研究を遂行する。基礎学的な実験的研究については、歯周病原性に影響を及ぼす候補代謝物の探索・同定を進める。特に、これまでに見出された候補代謝物について、P. gingivalisへの影響を多角的に評価することに注力し、歯周病原性に影響を及ぼす機能性代謝物の同定を目指す。また臨床的研究については、引き続き機能性代謝物による細菌叢構成割合の変化や代謝物プロファイルの変動の解析を進める。特に、これまで注力してきたメタボローム解析に加え、次世代シークエンサーを用いた口腔細菌叢の構成および機能解析に本格的に取り組み、食物と口腔細菌叢の相互作用をメタボライト・菌種レベルで解き明かすことを目標とし、本研究で提唱するモデルの妥当性を検証する。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う研究環境の変化に加え、2020年4月から2022年3月にかけて行われた研究棟改修工事の影響により、実験に使用する装置が一時的に使用できない状態が続いた。こうした事案が積み重なり、研究の着手および実験の進捗に多大な影響を及ぼし、次年度使用額が生じた。現在、パンデミックは収束に向かい、本邦でもCOVID-19感染症が5類移行されるなど、本研究を取り巻く研究環境は著しく改善しており、今年度内で目的とする実験、およびデータ解析を完了する見通しである。
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mSystems
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Frontiers in Molecular Biosciences
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