これまでの研究課題では、従来の患者安全教育の内容が、学習者の患者安全能力の獲得にどのように影響を与えるかを測定し、測定データを基に新たな教育プログラムを開発することを目的とした。申請者らは、共用試験OSCE・CBTを合格した一定の知識や技術を持つ学生らに対して、一次救命処置に関する複数の課題を用意した。一つに、従来の心肺蘇生法教育のような、心停止患者が横たわった状態を発見し、蘇生を試みるシチュエーションである。もう一つが、医療現場で起こり得るような、意識がある状態から心停止に移行する患者であり、過去に対応したことのない状況下(イレギュラー事例)でどのような対応を行うかを実践させた。反応の確認、通報、傷病者の観察、胸骨圧迫、AEDの使用、AED実施後の胸骨圧迫、救急医への引き継ぎの各フェーズについて、学習者の達成度を尋ねたところ、イレギュラー事例実施後の調査では、従来の心肺蘇生教育の実施後に比べ、全ての項目でポイントが下がっていた。また、従来の事例では十分に対応できていたものが、イレギュラー事例に遭遇した途端に、臨床現場では重大な判断ミスにつながるような、通報忘れやAEDの使用を躊躇するケースが多く散見された。一方で、学習者からの事後アンケートからは、実際に起こり得るシチュエーションを疑似体験させることにより、手技の応用の理解や、イレギュラーな中での状況把握の重要性の理解を促進させる効果が明らかとなった。そのため、患者安全教育においては、知識や手技を学習させるだけではなく、実際に起こり得るシチュエーションや本人の予想できない状況を疑似的に体験させることで、レジリエンス能力を獲得できる可能性が示唆された。
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