研究課題/領域番号 |
20K18850
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
原 広司 横浜市立大学, 国際商学部, 准教授 (60824985)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | QOL / 組織文化 / 介護の質 / WHO-5 / EQ-5D |
研究実績の概要 |
本研究は、介護事業所における介護の質および組織文化を大規模に調査、可視化し、その関連を明らかにすることで、介護の質向上に寄与することを目的にしている。医療においては、職員の組織文化と医療の質に関連があることが明らかになっているが、介護ではこれらの関係性の検証は行われていない。 2021年度は2020年度で取得したデータを用いた分析、学会報告、および追加の調査を行った。具体的には、利用者のQOLの経年変化および介護事業所の職員組織文化との関連について分析を行い、2つの国内学会で報告した。これらの分析結果より、利用者QOLスコアは経年で徐々に低下する傾向がみられた。QOL指標のWHO-5スコアは1年間で約3.3%低下、EQ-5Dスコアは1年間で約4.7%低下することが明らかになった。とくに、EQ-5Dスコアでは要介護3以上で悪化しやすく、WHO-5スコアでは要支援2と要介護5で悪化しやすい傾向が確認された。 一方で、利用する介護事業所の職員組織文化が良好であれば、利用者のQOLは維持、向上しやすい可能性が示唆された。とくに情報共有や資源が良好な事業所でその傾向が確認された。職員の情報共有の向上のためには職種間の情報共有および迅速な情報共有が重要と考えられる。こうした取り組みは、職員の組織文化向上のみならず、利用者のQOL維持、向上にも寄与する可能性がある。 2021年度は、分析および学会報告に加えて、追加調査も実施した。昨年度の調査協力事業所に対し、調査票を再度配布し、回収した。追加調査により取得したデータも活用し、利用者QOLおよび職員組織文化の変化およびそれに影響する要因の探索を行う。また、これらの結果を学術論文に取りまとめて報告する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、介護事業所の職員および利用者に調査票を配布し、調査票データを分析する研究である。2020年度は、新型コロナウイルスの蔓延により、予定していた大規模調査の実施に大きな支障が出たものの、約40の介護事業所で調査票調査を実施し、一部の事業所にはヒアリングも行った。それらにより、利用者および職員それぞれ約1000名から調査票を回収することができた。調査の際に、調査票IDを発行し、利用者および職員の経年変化を追跡した。2020年度とそれ以前のデータを調査票IDで突合し、経年のデータベースを作成した。 2021年度は、経年のデータベースを用いて、利用者QOLの経年変化、利用者QOLと職員組織文化の関連を検証した。その結果、利用者QOLスコアは経年で徐々に低下することが明らかになった。また、利用者QOLスコアと、利用する事業所の職員組織文化スコアの関連では、組織文化スコアが良好な事業所を利用している利用者の方が、QOLスコアは維持、向上しやすい傾向が確認された。これらの分析結果を2つの国内学会(日本公衆衛生学会総会、日本医療・病院管理学会)で発表した。 2021年度は、分析および学会報告に加えて、追加調査も実施した。昨年度の調査協力事業所に対し、調査票を再度配布し、回収した。追加調査により取得したデータも活用し、利用者QOLおよび職員組織文化の変化およびそれに影響する要因の探索を行う。また、これらの結果を学術論文に取りまとめて報告する。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度および2021年度に取得したデータに基づき、学会報告を行った。2022年度は、これらの成果を学術論文に取りまとめて投稿する。具体的には、利用者QOLの変化や職員組織文化との関連等の研究結果を取りまとめ、国際雑誌の学術論文として投稿する。加えて、これまでの回収したデータを時系列データとして整備し、より詳細な分析を行う。 2022年度も継続的に調査を実施し、さらなるデータの取得を目指す。継続的な調査により、利用者QOLや職員組織文化に関連する要因の探索、さらにこれらを維持、向上させる方策の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウイルス感染拡大により、当初予定していた大規模調査が制限された。そのため、研究遂行に係る費用がほとんど発生しなかった。また、調査協力事業所への打ち合わせや視察、および学会参加に関わる旅費も、新型コロナウイルス感染拡大によりキャンセル・延期やオンラインとなったため、発生しなかった。それらの繰越が2021年度発生した。加えて、2021年度は調査を実施できたものの、学会は継続してオンラインとなったため、旅費が予定よりもかからなかった。以上の理由から次年度使用額が生じた。2022年度は、これらの研究費を活用し、学会発表、論文投稿、追加調査を実施する。
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