匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)の特別抽出データを用いて、訪問診療を受けた75歳以上の高齢者の薬物治療を2015年と2019年で比較した。ランダム効果ロジスティック回帰分析により、調査年と処方との関連を評価した。主な結果として、多剤処方(5種類以上と定義)の割合は2015年と2019年ともに約70%と同程度だったが、薬物治療内容が変化していることが明らかとなった。以下に、高齢者に特に慎重な投与を要する薬物(PIM)のうち、処方頻度の高いものを中心とした結果を要約する。まず、ベンゾジアゼピン系睡眠薬/抗不安薬・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(PIM)の処方が減少した。睡眠薬全体としては処方割合に大きな変化はみられなかったものの、ベンゾジアゼピン系睡眠薬(PIM)の処方が減少し、新しい種類の睡眠薬の処方が増加していたことから、薬剤の中止が難しい場合であっても、より安全な代替薬が利用できる場合には、薬剤選択が変化し、より安全な薬物治療につなげられることが示唆された。次に、抗認知症薬では、コリンエステラーゼ阻害薬からメマンチンへのシフトがみられた。その背景としては、メマンチンの認知症の周辺症状(BPSD)への有用性が期待されていることがあると推察される。一方で、認知症者に対する抗精神病薬(PIM)の処方が減少していないことは継続的な課題といえる。最後に、胃酸分泌抑制薬のうち、H2受容体拮抗薬(PIM)の処方は減少したものの、腎疾患、感染症、骨折等のリスクと関連するプロトンポンプ阻害薬の処方が増加していた。この場合、課題の解決とともに、新たな課題が生じている可能性が考えられた。本研究により、在宅療養高齢者の薬物治療にはおおむね良い変化がみられるものの、継続的な課題や新たな課題を特定することができた。
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