がんの診断を受けてから治療を開始するまでの日数、「がんの治療待ち期間」は、QOLや予後を悪化させうるため短縮されるべき項目の1つである。これは、医療の質の指標として諸外国では公表されているが、日本では実態が不明である。また、治療待ち期間の短縮に関連する要因についての知見は蓄積されていない。本研究では、DPCデータを利用して治療待ち期間を算出し、日本における平均的ながん治療の待ち期間を示した上で、それに関連する要因を明らかにすることを目的とした。 本研究での治療待ち期間は、治療バリエーションの影響を少なくするため、ガイドライン上、第一選択が手術治療であり、確定診断のための検査が明確である、子宮頚癌、乳がんを中心に分析した。分析結果から、確定診断の検査実施から手術実施までの期間は子宮頚癌で平均53.7日(±55.3)、中央値は39日(26-60)で、乳がんでは、平均60.8日(±58.1)、中央値は43日(30-62)であることが分かった。子宮頚癌において、治療待ち期間と関連する要因を多変量解析したところ、進行したステージが治療待ち期間を短くし、大都市では治療待ち期間が長くなる可能性があることが示された。一方で、拠点化した病院や大学病院と一般の病院の間では、治療待ち期間に統計学的に有意な差を認めなかった。この研究により、がん診療の拠点化は、治療待ち期間には影響しない可能性が示唆された。また、諸外国の先行研究の知見と異なり、本研究において都市部で治療待ち期間の延長を認めた。これは、日本では諸外国に比べて中小規模のがん診療拠点病院が多く集約化が弱いことに関連している可能性があると考えられた。本研究課題において、日本のがん診療の治療待ち期間を全国規模のデータで示し、がん診療拠点病院の設置や地域の影響を検討することで、今後のがん医療提供体制の検討に資する知見を出すことができたと考えられる。
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