研究課題/領域番号 |
20K18902
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
近藤 梨沙 名城大学, 薬学部, 助教 (00809436)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 元素汚染 / 健康リスク評価 |
研究実績の概要 |
開発途上国における安全な飲用水の確保は、SDGs(持続可能な開発目標)のひとつに取り上げられる非常に重要な問題である。世界で約6憶6300万人が基本的な飲み水の入手ができない状況にあり、そのうち河川や湖などから汲んだ未処理水を飲んでいる人口は1憶5000万人にのぼる。未処理水中に含まれる有害物質のうち、煮沸浄化が可能な有機汚染物と異なり、元素は除去が困難であることから、汚染元素の特定及び浄化技術の開発が課題となっている。元素による水質汚染には、主に工業など人間の活動由来のものと、鉱床等の自然由来のものが考えられる。アフガニスタンでは多くの鉱床が存在している中で、伝統的にカレーズを用いて地下水を飲用水として利用してきており、飲用地下水の高濃度元素汚染が想定される。 飲用井戸水の元素汚染を原因とする慢性ヒ素中毒患者は、アジア地域を中心に数千万人以上にのぼり、中毒症患者から癌が多発している。しかし、汚染された飲用水中には、ヒ素以外にも複数種の有害元素が含まれており、複合的曝露によりヒ素の発癌毒性を促進することが明らかとなっている。これまでに、鉄、バリウムとヒ素の複合曝露による発癌毒性の相乗的促進が明らかとなってきたことから、同じような傾向を示す元素を同定することが急務となる。 本研究では、アフガニスタンの首都カブール飲用井戸水を採取し、227検体について元素濃度測定を行い、リチウム濃度が最大値、平均値ともに他地域より高値であることを明らかとした。また、正常細胞株と癌細胞株を用いて、リチウム添加による形質転換誘導能を評価した。リチウム刺激により、正常細胞株の足場非依存的増殖が促進される一方、癌細胞株の増殖に影響はみとめられなかった。以上のことから、リチウムが発癌誘導能を有することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、当初の予定通り、カブール飲用水227検体全てについて元素分析を行い、リチウムが高濃度に含有されていることを明らかとした。また、リチウムの発癌性評価として、培養細胞を用いてリチウムの形質転換能を示した。 現在、リチウム添加による形質転換誘発に係るチロシンキナーゼの同定、キナーゼ阻害剤による形質転換能への影響評価を進めていることから、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、今後、当初の予定通り、(1)形質転換に係るキナーゼの同定(2)ヒ素との複合暴露による発癌性の評価(3)発癌リスク評価系の構築を目指す。 (1)形質転換に係るキナーゼの同定:正常細胞株を用いて、リチウム添加により活性化するシグナル経路の探索を行う。特に、チロシンキナーゼへの影響を検討し、キナーゼ阻害剤による形質転換能の抑制効果の検証に取り組む。 (2)ヒ素との複合暴露による発癌性の評価:リチウムとヒ素を複合添加した際の形質転換能、および下流シグナル経路の変化をリチウム単独添加時と比較する。 (3)発癌リスク評価系の構築:ヒ素により発現誘導される遺伝子について、プロモーター領域を用いたルシフェラーゼアッセイにより、評価系の構築を進め、リチウムとの複合暴露によるルシフェラーゼ活性への影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養細胞実験に使用する培地や実験器具を購入する予定であったが、供給が不安定であり、納品時期が大幅に遅延したことから今年度中に使用することができなかった。次年度の細胞培養実験において、培養用培地やキナーゼ阻害剤の購入費用に充てることとしたい。
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