研究課題/領域番号 |
20K18907
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
小田切 崇 岩手医科大学, 医学部, 助教 (80770221)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 進化 / 変異株 / HA遺伝子 / HA抗体 |
研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスの進化様式の1つとして点突然変異を繰り返すことで徐々に抗原性を変化させる抗原連続変異が知られている。これまでB型インフルエンザウイルスはA型インフルエンザウイルスと同様、この抗原連続変異によって宿主免疫から逃れ、生き残りを図ってきた。しかし近年、B型インフルエンザウイルスのVictoria系統株(B/Vic系統株)においてHA遺伝子の一部を欠失させることで抗原性を大きく変化させたウイルスが出現し、その変異株の流行が拡大している。一方でヒトの中で流行するA型インフルエンザウイルスではこの遺伝子の欠失という現象はみられていない。 本研究では遺伝子の欠失(あるいは挿入)がB型インフルエンザウイルス特有の進化様式ではないかと考え、培養実験系を用いたB型インフルエンザウイルスの進化機構解明と今後の進化予測を目指している。 本年度は遺伝子登録データベースを活用し、遺伝子欠失によるB/Vic系統変異株の流行状況を調査した。欠失による変異株は2016年に検出されて以降、流行シーズンを経るごとに検出される割合が増加し、2020年の時点で流行しているB/Vic系統株の9割以上がこの変異株であることが判明した。 またB型インフルエンザウイルスのHAにはいくつかのエピトープが存在していることが既に報告されており、本年度はこれまでに登録されているB/Vic系統株のHA遺伝子配列を比較することで、高頻度に変異を起こしているエピトープ領域の検索を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は主として特異抗体を用いたB型インフルエンザウイルス変異株の作出を目的として、まず標的とするエピトープの選択を行った。本年度は既に報告されている複数のエピトープのうち、2016年の流行株で遺伝子の欠失が生じたエピトープを含む領域に焦点を当て、変異株の作出ならびに性状解析を行うことにした。しかし変異株作出にあたり必要となる最適な抗体の入手が難航したため、年度内に予定していた実験のすべてを完了させることができず、具体的な結果を得るまでに至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
B型インフルエンザウイルスの変異株作出に必要となる抗体を得るために、標的とするエピトープを含む領域のアミノ酸配列からペプチドを合成してマウスに投与することで、標的領域に対する特異抗体を作出する。 作出した特異抗体と実験に用いるB型インフルエンザウイルスが反応することを確認した後に、特異抗体とB型インフルエンザウイルスを用いてB型インフルエンザウイルス変異株の作出を試みる。 加えて作出に成功した変異株のHA遺伝子のシークエンスを行うことで塩基配列を決定し、遺伝子欠失の有無を確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
安全キャビネットが経年劣化による不具合を生じたため、新規購入することとなり前倒し支払い請求を行った。しかし研究進捗に遅れが生じ、いくつかの実験を延期したことや、参加予定だった学会が延期されたため、若干の未使用額が生じた。 次年度は、本年度当初予定していた特異抗体を用いたB型インフルエンザウイルスの変異株作出の系を構築するとともに、作出に成功した変異ウイルスの遺伝子性状解析を実施する予定であり、これらの実験に未使用額と来年度助成金を使用する予定である。
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