近年、B型インフルエンザウイルスのVictoria系統株(B/Vic系統株)においてHA遺伝子の一部を欠失させることで抗原性を大きく変化させたウイルスが出現し、その変異株の流行が拡大している。一方、ヒトの中で流行するA型インフルエンザウイルスではこの遺伝子の欠失という現象はみられていない。 本研究では遺伝子の欠失(あるいは挿入)がB型インフルエンザウイルス特有の進化様式ではないかと考え、培養実験系を用いたB型インフルエンザウイルスの進化機構解明と今後の進化予測を目指した。 研究期間全体を通じて以下の結果が得られた。 マウスにB/Vic系統160-loop領域のアミノ酸配列を含むペプチド投与後、脾臓リンパ球を採取し、ミエローマ細胞と融合させることで160-loop領域に結合する単クローン抗体の作製をこころみた。B/Vic系統のウイルスと結合する単クローン抗体が複数得られたが、いずれの抗体もウイルス中和能を有してはいなかった。このことから合成ペプチド免疫マウスからの単クローン抗体作製には、作製方法を工夫する必要性があることが示唆された。 B/Vic系統株の変異体を作出するために、1990年代までのB/Vic系統の160-loop近傍に結合すると考えられる10B8単クローン抗体(10B8-mAb)を入手した。この10B8-mAbとB/Shandong/7/97(B/Vic系統株)との共培養を繰り返すことで、10B8-mAbから逃れるエスケープ変異体を2株作出することに成功した。このうち1株は160-loop領域内に1アミノ酸欠失を持った株であった。このことから、抗体で免疫圧をかけると、B型インフルエンザウイルスは遺伝子を欠失させて免疫逃避(≒進化)することが示唆された。
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