研究課題/領域番号 |
20K18913
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
青野 裕一 関西学院大学, 理工学部, 助教 (10806293)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 皮膚がん予防 / ヒノキチオール / ケミカルバイオロジー |
研究実績の概要 |
日本人の皮膚がんの年間罹患者数は増加傾向にあり、従来の日焼け止め使用による皮膚がん予防に加え、新たな予防法の必要性が高まっている。本研究では、皮膚がん予防に有効と考えられるヒノキチオールが直接作用する新規標的分子をケミカルバイオロジーの技術であるナノ磁性ビーズを用いて同定し、皮膚がん細胞に対する薬効の新規作用機序を明らかにすることを目的としている。 まず、悪性黒色腫株B16と扁平上皮がん細胞株HSC1を用いてヒノキチオール(以下HiOH)の添加実験を行った。その結果、両細胞に対して増殖抑制作用を示した。また、細胞周期・細胞死解析の結果、両細胞においてS期停止および細胞死が誘導され、それに加えHSC1細胞ではG2/M期の増加も確認された。 また、正常な表皮細胞であるHaCaT細胞について、紫外線(UVB)照射と酸化ストレス(過酸化水素)処理を行い、その細胞傷害性に対してHiOHが保護効果を示すかについて検証を行った。その結果、酸化ストレスに対しての保護効果が確認された。 次に、HiOHの上記の効果を担う部位を特定するため、構造が類似した2つの化合物との作用の比較を行った。HiOHは、7員環構造でケト基とヒドロキシ基の二つの酸素原子によって金属キレート作用を持ち、4位の炭素にイソプロピル基を有する。そのイソプロピル基を持たないトロポロンと、トロポロンのヒドロキシ基がメチル化された2-メトキシトロポンを比較に使用した。3つの化合物で比較したとき、HiOHのみが皮膚がん細胞に対する増殖抑制作用および正常表皮細胞に対する保護効果を示すことが明らかとなった。このことから、HiOHが有する作用を発揮する際、イソプロピル基を含む7員環が重要ある可能性が示された。 以上のことから、HiOHの標的タンパク質を取得するため、この構造を残した状態でHiOH固定化ビーズを調製し、作製を終えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、コロナウイルス感染拡大の影響から思うように実験を進めることができなかった。当初、ヒノキチオールが有する作用を担う標的タンパク質の候補となる結合タンパク質の精製までを計画していたが、特定するまでには至らなかった。しかしながら、ヒノキチオールが有する皮膚がん細胞に対する抗腫瘍効果および正常表皮細胞に対する保護効果を担っていると考えられる部位を特定することができた。これにより、ヒノキチオール固定化ビーズを作製する際に使用する官能基および作製手法についても決定することができ、実際にビーズの作製も終えている状態である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、作製できたヒノキチオール固定化ビーズおよび細胞溶解液(B16、HSC1、HaCaT細胞)を用いて、ヒノキチオール結合タンパク質を精製する。この結合タンパク質を取得後、質量分析計を用いてヒノキチオール結合タンパク質を同定する予定である。その後、結合タンパク質の発現抑制・過剰発現を行うことで、ヒノキチオール添加実験で見られたものと同様の作用を示す分子を特定する。これと同時に結合タンパク質の組み換えタンパク質とヒノキチオール固定化ビーズとの結合実験を行い、ヒノキチオールと同定された結合タンパク質が直接作用しているか否かについても確認を行う。さらに、特定された結合タンパク質の発現抑制・過剰発現を行った皮膚がん細胞と正常表皮細胞に対し、ヒノキチオールを処理しヒノキチオールが有する作用が減弱するか否かの検証を行う。以上の検証から、ヒノキチオールが同定された結合タンパク質を介して効果を発揮している可能性を示す。
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