研究課題
インフルエンザウイルスなどのRNAウイルスでは、ゲノム複製時にウイルスポリメラーゼによって高頻度に変異が導入されるため、感染細胞中の子孫ウイルスは遺伝的に不均一な「Quasispecies」と呼ばれる集団を形成している。過去の報告から、季節性インフルエンザウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼは複製忠実度(Fidelity)が低く、およそ140000に1塩基の頻度で塩基置換が生じるとされている。ウイルスポリメラーゼサブユニットの1つであるPB1上の82番目のアミノ酸がチロシン(Y)からシステイン(C)に変異した株(PB1-Y82C)は、過去の流行株のウイルスポリメラーゼと比較して約2倍変異を導入しやすい「高頻度変異導入株(以下、Mutator mutant)」である。これまでに、培養細胞を用いた実験系で、インフルエンザウイルスにノイラミニダーゼ阻害剤であるオセルタミビルにて増殖制限をかけた場合、ウイルス集団中のPB1-Y82Cゲノムの割合が増加する傾向が観察されていた。本年度は、培養細胞にインフルエンザウイルスのレプリコンを再構成し、インフルエンザウイルスポリメラーゼ阻害剤であるバロキサビルを用いて増殖制限をかけ、複製されたウイルスゲノムのPB1-Y82領域の塩基配列をNGSにより解析した。しかしながら、薬剤濃度およびタイムコースの組み合わせに関わらず、薬剤非添加群と比較してウイルス集団中のPB1-Y82Cゲノムの割合に変化は観察されなかった。これより、増殖制限をかけることでPB1-Y82Cゲノムの割合が上昇する現象は、ノイラミニダーゼインヒビターに特異的な現象であることが推測される。
4: 遅れている
臨床業務のエフォートを上げざるを得ない状況となったため。
マウス個体を用いた感染実験系を立ち上げ、培養細胞で観察された現象がin vivoでも生じることを明らかにするとともに、オセルタミビルによりPB1-Y82Cの存在比率が上昇するメカニズムを調べる。
臨床業務にエフォートを割く必要が生じたこと、および学会発表を含む全ての出張を中止したため。次年度は消耗品、解析用PC、旅費、英文校正、論文投稿料に使用する予定。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Hypertension
巻: 79 ページ: 413-423
10.1161/HYPERTENSIONAHA.121.18026
International Heart Journal
巻: 62 ページ: 1420-1429
10.1536/ihj.21-283