研究課題
E. albertiiは、2003年に新たに命名された新興食中毒細菌である。本菌による集団食中毒事例では、この数年間だけでも患者数が100名以上に及ぶ大規模な事例が続発しており、一部の集団感染事例では、井戸水等の原因食品が特定されているが、6割以上の事例で原因食品が特定されていない。そのため、E. albertiiの生態解明が食中毒対策として重要である。過去の家畜および家禽の糞便調査では、鶏およびブタが1-30%程度E. albertiiを保菌しており、病気の鳥からも本菌が分離された。しかし、これまでブタの疾病に関連した報告はないため、健康保菌豚が多数存在し、食品の汚染源となっている可能性が危惧される。本研究の目的は、E. albertiiの重要な保菌動物と考えられるブタに焦点をあて、ブタ生体の保菌状況、ブタ体内の保菌部位の特定、市販豚肉・内臓肉の汚染実態調査、分離株の遺伝子構造および培養細胞を用いた病原性の解析を通じて、これまで不明だった本菌の生態を明らかにすることである。過去の報告では、地域が限定されて豚のE. albertii汚染が報告されていたため、全国的な保菌状況を把握することを目的にと畜場でのブタ腸管内容物のE. albertii保菌状況調査を実施予定であった。しかし、豚熱および新型コロナウイルスの流行によってと畜場でのサンプル採取が難しいことが予想された。そこで、論文などの報告についてまとめたところ、日本の地理的に離れた複数の地域の豚がE. albertiiを保菌(1.5-18.3%陽性)することがわかった。また、新たに開発したE. albertii特異的リアルタイムPCR法を用いて豚の保菌部位を調査した。その結果、口腔スワブを含む生体試料や水飲み場のスワブを含む環境試料から本菌が検出された。そのため、豚が本菌を糞便中に限らずに保菌している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
と畜場でのブタ腸管内容物のE. albertii保菌状況調査を実施予定であったが、豚熱および新型コロナウイルスの流行によってと畜場でのサンプル採取が難しいことが予想された。そこで、調査方法を変更したものの、当初必要としていたデータは取得したため、おおむね順調に進展していると考えられる。
R3年度の調査結果から全国的な豚のE. albertii保菌が示されたため、R4年度はさまざまな産地の豚肉のE. albertii汚染実態調査を実施する。この際、R3年度の試験にて口腔スワブから本菌が検出されたため、豚タンなどの様々な部位を対象に試験を実施する。検体を増菌培養し、培養液をE. albertii特異的リアルタイムPCRにてスクリーニングを行う。PCR陽性検体に対しては、開発した食品中からのE. albertii分離法に従い本菌の分離を試みる。また、R3年度に引き続き、E. albertii食中毒が発生した際には対象自治体に協力を要請し、食中毒事例におけるヒト由来株を収集する。分離株について、各種生化学性状および病原因子を中心とした遺伝学的性状を試験する。さらに、分離株の全ゲノム配列を、高速シーケンサーを用いて取得する。本菌のゲノムサイズは4.5-5 Mbであるため、複数の菌株を別々に標識して、同時に配列決定する。
消費期限が短い比較的高額な試薬を次年度冒頭で購入する必要が生じたため、必要経費を次年度に繰り越した。
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Journal of food protection
巻: 85(1) ページ: 173-179
10.4315/JFP-21-222
巻: 84(4) ページ: 553-562
10.4315/JFP-20-206