研究課題
昨年度実施した豚生体サンプル由来DNAを供試した試験では、口腔スワブを含む生体試料や水飲み場のスワブを含む環境試料からEscherichia albertiiが検出された。そのため、R4年度は、さまざまな部位由来の市販豚内臓肉について、E. albertiiの汚染実態調査を実施した。その結果、複数の小売店で販売されていたレバーやホルモンなどからE. albertiiの遺伝子が検出され、その中のホルモンやタンから本菌が分離された。また、E. albertiiの病原因子の解析では、astA(腸管凝集付着性大腸菌耐熱性エンテロトキシン1をコードする遺伝子)について解析した。astAは、特に大腸菌において保有が確認されており、令和2年にはastA保有大腸菌を原因とする患者数2,958名の大規模な事例も報告され、注目された。astAは、細菌の染色体またはプラスミドにコードされており、配列の多様性(バリアント)が報告されている。これまでE. albertiiのastA保有についての詳細な報告がなかったため、過去に収集した集団食中毒事例由来株などのヒト由来株、動物由来株および食品由来株について解析した。その結果、供試した57株中散発下痢症由来の1株がastA特異的コンベンショナルPCR法陽性であった。遺伝子シーケンスによって配列を特定したところ、配列が不完全であり、astAとしては機能していないことが予想された。そのため、今回調査した株に関しては、E. albertiiの病原性にastAは重要ではないことが示唆された。さらに、集団食中毒事例由来株、散発下痢症由来株および食品由来株の一部について全ゲノム配列取得用のライブラリーを調製し、Illumina MiniSeqを用いて配列を取得した。当初はシーケンサーの稼働は外注する予定であったが、共通機器としてMiniSeqが整備されたため、その装置を活用した。
2: おおむね順調に進展している
R4年度は市販豚肉の汚染実態調査、陽性検体からの菌分離およびE. albertiiの全ゲノム配列決定であり、当初の予定通り進捗している。但し、PCR陽性検体から必ずしもE. albertiiが分離されなかったため、培養法の手法については改良の余地があることを確認した。
R4年度に実施した市販豚肉の汚染実態調査において汚染が確認された内臓肉を中心に、さらに検体数を増やして汚染実態調査を実施する。また、引き続き、E. albertii食中毒が発生した際には対象自治体に協力を要請し、食中毒事例におけるヒト由来株を収集する。分離株について、各種生化学性状および病原因子を中心とした遺伝学的性状を試験する。さらに、分離株の全ゲノム配列を、高速シーケンサーを用いて取得する。本菌のゲノムサイズは4.5-5 Mbであるため、複数の菌株を別々に標識して、同時に配列決定する。R5年度に新たに実施する項目として、全ゲノム配列解析および培養細胞を用いた試験がある。全ゲノム配列解析では、病原性関連遺伝子等の型別を比較を行う。さらに、全ゲノム解析の結果から保有する病原因子などの違いから複数株選択し、培養細胞を用いたE. albertiiの病原性評価試験の実施を目指す。
より新しくスペックが高いパソコンを購入するため、必要経費を次年度に繰り越した。
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Foodborne Pathogens and Disease
巻: 19(12) ページ: 823-829
10.1089/fpd.2022.0042
巻: 19(10) ページ: 704-712
10.1089/fpd.2022.0048