本研究は、Escherichia albertiiを遺伝子型別によりGroupingし、感染者、動物及び環境における分布を調査することで感染経路の推定を目指している。疫学的関連性がなかった感染者由来の38菌株、分子疫学的解析法により異なるクローンから発生したと確認された動物由来の16菌株、及び環境由来の2菌株のE. albertiiを供試菌株に選んだ。これら菌株について、大腸菌のmultilocus sequence typing(MLST)で解析される7遺伝子をシーケンスした後、遺伝子配列を基に最尤法で系統樹を作成した。さらに、ベイズ定理を利用した集団構造解析を行ったところ、菌株は3つの系統(P1-P3)とそれ以外に分かれた。系統間で菌株の由来に違いが見られ、P2は動物及び環境由来のみだったが、それ以外の系統の由来は様々だった。この結果は、動物や環境に特有に分布する系統と動物等から人に感染する系統が存在することを示唆している。次に、公共データベースから様々なE. albertiiのコンプリートゲノムを得て、これらをリファレンスにしたlocal BLASTデータベースを構築した。大腸菌が保有する13個の病原因子遺伝子についてlocal BLAST検索を行い、E. albertiiでの遺伝子配列を抽出した。抽出した遺伝子についてPCR検出系を設計し、供試菌株における保有状況を調べた。保有状況を基にminimum spanning treeを作成したところ、動物由来菌株の半分以上は感染者由来菌株から離れた枝に集積した。集積した菌株はP2とそれ以外の系統に属していたことから、系統横断的、かつ宿主特異的な病原因子保有パターンの存在が示唆された。以上より、感染者から分離されたE. albertii菌株について、MLSTに基づく系統分類や病原因子の保有状況の調査を行うことは、感染経路の推定に有用と思われる。
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