研究課題/領域番号 |
20K18924
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研究機関 | 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 |
研究代表者 |
白井 達哉 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 主任研究員 (30846473)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ノロウイルス / RdRp / 遺伝子変異 |
研究実績の概要 |
昨年度報告のノロウイルス(NV)の遺伝子型GII.4[P31]に加え、GII.3[P12]のゲノムを挿入した哺乳類発現ベクター(それぞれGII.4[P31]-mベクター 、GII.3[P12]-mベクター)を作製し、HEK293FT細胞へトランスフェクションした。いずれも、トランスフェクション後の試料からリアルタイムRT-PCRによりNV RNAが検出された。ただし、ベクターからのRNA転写は宿主細胞由来RNAポリメラーゼにより行われるため、ウイルス由来RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)によるRNAの複製が行われているかは更なる検証が必要である。そのため、以下の実験(1)及び(2)を行った。 (1)抗RdRp抗体によるウエスタンブロット(WB):大腸菌発現ベクターにRdRp及びHisタグコード領域を導入し、発現タンパクをウサギに免疫し抗体を得た。しかし、GII.4[P31]-mベクター、GII.3[P12]-mベクターのいずれをトランスフェクションしたセルライセートからもRdRpを検出することはできなかった。この抗体がWBで使用可能かを確認するため、RdRp及びHisタグコード領域を導入した哺乳類発現ベクターを作製し、トランスフェクションしてWBを実施した。その結果、抗Hisタグ抗体では標的タンパクを検出できた一方、抗RdRp抗体では検出できず、WBに使用できないと考えられた。 (2)subgenomic RNA を検出するノーザンブロット(NB): RdRpはNV RNA全長の複製に加え、subgenomic RNA を合成する。NBでsubgenomic RNAが検出できればRdRpによるRNA複製が起きていると考えられるが、GII.3[P12]-mベクター 、GII.4[P31]-mベクターを導入した細胞由来サンプルからはシグナルは得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画調書に照らし合わせると、2022年度はRdRpにより複製されたRNAの核酸解析(シークエンス)を実施するとしている。2021年度の新型コロナウイルス検査及びその次世代シークエンス解析を業務等による遅れを挽回できていないこと、RdRpの発現の確認に計画以上の時間を要していることから上記の区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
ノロウイルスゲノムを挿入したプラスミドのトランスフェクションにより、RdRpによるRNAの複製が行われているか引き続き検証を行う。今年度作製した抗RdRp抗体はウエスタンブロットには使用できなかったが、蛍光抗体法(IF)など他の検出系での使用を検討する。また同時に、RdRpのペプチドに対する抗体など、ウエスタンブロットで使用出来る抗体の作製を試みる。ノーザンブロットについては感度に対し標的RNA量が少なかった可能性を考慮し、より濃度を上げたサンプルを作製し検出する。また、カプシドタンパクの翻訳はsubgenomic RNAから行われるため、カプシドタンパクをウエスタンブロット等で検出することはノーザンブロットの代替案となる。RdRpの発現及びRNAの複製が確認できれば、次世代シークエンスによりRNAの配列解析を行う。ノロウイルス遺伝子全長を組み込んだベクターからのRdRp発現が難しい場合は、RdRpのみを発現するベクターを同時にトランスフェクションし、発現させる。哺乳類細胞から得られる情報だけで不十分な場合は、全長RNAに対して精製RdRpタンパクによる複製を試験管内で行い、その配列を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究所ではウイルス遺伝子を対象とする研究テーマを複数有しており、今年度に実施したPCR、クローニング及び培養等に関して、試薬や物品の一部を試薬や物品を他の研究と共用するなどして無駄をなくし、コストを抑える工夫ができた。また、情報収集のために参加予定であった学会がWeb開催になるなどして、旅費が発生しなかった。次年度の使用計画としては、(1)トランスフェクションやそれに用いるベクター、細胞の検討、(2)たん白質の発現確認に用いる抗体の作製、購入、(3)RNA変異解析のためのシークエンス解析等を充実したものにするために利用する。
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