Staphylococcus argenteus(アルジェンテウス菌)は2015年に新種登録された新興病原細菌であり、皮膚軟部組織感染症や敗血症の起因菌である。臨床検体由来株の解析は国内外で相次いで報告されている一方で、食品や健康人手指といった非臨床検体由来株の解析は進んでいない。本研究では、保有する食品・健康人手指・環境由来株の全ゲノム配列を解読し、ゲノム情報から本菌の病原性の評価を試みる。 研究期間を通じて、国内で分離した非臨床検体等由来株、95株の全ゲノム配列を新規に決定した。また、データベースに登録されているゲノムデータについて、令和5年度に改めて品質を精査し、最終的に、データベースから取得した353株分の高品質なゲノム配列を加えた、計444株についてパンゲノム解析を実施した。 コア遺伝子上の一塩基変異に基づく系統解析およびBayesian Analysis of Population Structure(BAPS)によるクラスタリングの結果、444株は大きく8つのBAPSクラスターに分類された。in-houseの病原因子遺伝子データベースを用いて、病原因子遺伝子の保有状況を調べたところ、ほとんどの病原因子遺伝子がほぼすべての系統で保存されていた。また、食中毒に関与するエンテロトキシン遺伝子の保有状況は、概ね系統内で保存されていたが、分離株の由来による差異は認められなかった。これらの結果は、非臨床検体由来株についても、本質的に病原性を有する可能性があることを示唆している。薬剤耐性遺伝子については、遺伝子系統との明瞭な関連性は認められなかった一方で、プラスミドレプリコン型との関連性が示唆された。また、比較対象として追加でゲノム解析を実施したS. aureus株についても、S. argenteusと概ね同様の傾向が認められた。
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