震災前のさまざまな要因が震災後の死亡リスクにどのような影響を与えているかを解明することを目的として、一般地域住民を対象とした大規模コホート研究のデータを用いて、震災前の社会経済的要因、生活習慣、心理的要因と震災後の死亡リスク変化との関連についての前向きコホート研究を実施した。 研究期間の最終年度となる2021年度は、初めに、人口動態調査死亡票データの提供を受け、解析用データベースを作成した。次に、震災後に増加した心疾患死亡に影響する要因を解明するため、震災前の社会経済的要因(学歴、婚姻歴、就業状況)、生活習慣(BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、歩行習慣)及び心理的要因(心理ストレス、生きがい、パーソナリティ)と心疾患死亡リスクとの関連について分析した。 本研究には、宮城県コホート研究のデータを用いた。解析では、Cox比例ハザードモデルを用い、それぞれの要因について、低リスク群を基準として高リスク群の心疾患死亡リスクの多変量調整ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。震災後5年間の心疾患死亡の多変量調整HR(95%CI)は、男性1.28(1.06-1.55)、高血圧既往1.49(1.31-1.70)、糖尿病既往1.32(1.02-1.72)、低学歴1.26(1.01-1.58)、未婚(離別・死別含む)1.38(1.15-1.66)、BMI25以上1.17(1.03-1.33)、多量喫煙1.64(1.34-2.00)、生きがいが無い1.65(1.24-2.19)となり、有意に心疾患死亡リスクの増加と関連していた。 本研究の結果、震災後の心疾患死亡リスクに、震災前の健康状態、社会経済的要因、生活習慣、心理的要因が関連していた。さまざまなリスク要因が集積し、震災後に死亡リスクが高くなることが予測される対象者に対し、健康被害を最小限にする予防活動が必要であることが示唆された。
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